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のどが詰まる…逆流性食道炎?がんの場合も

 「のどになにか、詰まっている感じ」を経験したことがありますか。この症状は、Rome3機能性消化管障害の診断基準で、「ヒステリー球」と呼ばれているもので、漢方医学では「梅核気(ばいかくき)」といいます。よくテレビのCMで流れているので、逆流性食道炎の症状として聞かれたことがある方も多いと思います。

 今から10年前、のどのつまりを訴えて、とある耳鼻咽喉科を受診された60歳のJさん。「ストレスがたまると、のどに何かあるような、まるで卓球のボールが詰まっている感じになります」とのことで、いろいろと検査しましたが、異常が見つかりませんでした。他院の内科からは「逆流性食道炎ではないか?」との見立てで薬を処方されてもいました。しかし、耳鼻科医は念のために詳しく調べてもらうようにと言われて、わたしのところへ胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を受けにいらっしゃったのです。

 「内科から薬をもらったら、症状も軽くなったので、何ともないと思うけれど、耳鼻科の先生がどうしてもとおっしゃるので」と元気な声でお話しをされるJさん。早速、検査を受けていただきました。

 結果は、「食道がん」。それも5cm以上もある大きな進行食道がんでした。

 Jさんには、手術ではなく、抗がん剤と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法を受けていただきました。治療中の副作用に対しては漢方薬を併用し、すべての治療を無事に終えることが出来ました。

もしも同じ症状が出たら…

 あれから10年が経ちました。先週行った胃カメラの結果を聞きに、Jさんが奥様とお見えになりました。来週から海外旅行へ行かれるのだそうで、挨拶にみえたのです。「先生にがんを見つけてもらってから、いろいろな国で美味しいものを沢山食べてきました。ただ、旅行中に前のようにのどが詰まる感じがあったら、どうすればいいのでしょうか?」と少々、不安な様子。

 そこで、「Jさん、先週の胃カメラでは再発の所見など、全くありませんでしたから、ご心配いりませんよ。ただ、のどの違和感があるのでしたら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)という薬があります。これを使うと良いと思います」と、Jさんを漢方医学で「梅核気」の症状と診断させていただき、漢方薬を処方させていただきました。

 Jさんのように「食道がん」の治療を受けられた患者さんは、治療後何年経っても、ほんの些細なことが心配になり不安感がつのるものです。検査をしても異常がなく原因不明で西洋医学による治療方法がない場合は、漢方医学による治療を組み合わせることで、解決策がきっと見つかると思います。

人前で緊張する人へ

 4月11日から13日まで福岡で日本全国から外科医が一堂に会し、日頃の研究成果を発表する学会が開かれます。わたしの兄も外科医で、「鼠径ヘルニア日帰り手術の今」を発表するというので、福岡までやって来ました。兄弟が壇上で話している姿を見ると、私も緊張してしまいますね。

 いざ、人前で話しをしようとすると、ドキドキしたり、慌ててしまったりするものです。わたしが初めて学会発表をしたのは20年余り前です。先輩に手取り足取り指導していただいたのに、内容をちゃんと伝えられたとは到底思えない出来だったと思います。

 今回ご紹介するIさんは、「緊張してうまく人前でしゃべられない」ことを相談に来られた34歳の高校事務職員です。

「春はイベント多すぎます」緊張する高校事務職員

 事務仕事は得意な I さんですが、季節柄、学校の行事で沢山の人たちの前でしゃべる機会が多く、そんなときはとにかく緊張してしまうんだそうです。「学校説明、入学試験、卒業式、入学式など、春はイベントが多すぎます」と困り顔です。そこで I さんには、抑肝散(よくかんさん)をお守り代わりに持ち歩いてもらうことにしました。

 抑肝散は7つの生薬で構成されている漢方薬ですが、中には、釣藤鈎(ちょうとうこう)と甘草(かんぞう)という生薬が含まれています。釣藤鈎の主成分であるガイソシジンメチルエーテルと甘草に含まれるグリチルリチン酸が脳内神経伝達物質に作用することが基礎研究で証明されています。

 最初、 I さんは抑肝散をどんなタイミングで内服して良いか、わからなかったそうです。しかし、何度か試しているうちに、イベントの前に内服しておくとよいことがわかりました。「少しは緊張しましたが、うまくしゃべることができました」「今回の説明会では、手に汗を握ることなく、終えることが出来ました」と、今ではすっかり上手に服用できるようになったようです。

抑肝散はエビデンスレベル分類トップの薬

 今回、ご紹介した抑肝散は、医学界で用いられる研究レベルの目安のひとつである「エビデンスレベル分類」でトップの成績を持っている薬です。これまで漢方医学で使われている漢方薬は、先人の経験的方法を基に使われてきました。近年、科学の進歩により漢方医学が持つ理論と経験が証明され、「言い伝え」ではなく、「科学的」に活用される時代がやって来ました。

春になると便通が不安定に

 真新しいランドセルが大きくて小さなカラダが隠れてしまい、ランドセルだけがピョンピョン跳びはねる光景を目にする季節になりました。入学式ですね。そんな大切な記念日には、ちょっと贅沢におすしでも、と気分が盛り上がりますね。回転ずししか知らない子ども達に、カウンターでいただくおすしデビューの機会にしてもいいかもしれませんね。

 今回ご紹介するHさんは、上場企業で働く38歳のOLさんです。昨年の6月中旬、「便通が不安定で、月経も不規則なんです」「昨年、子宮頸がん検診でクラス3aと言われ、3か月ごとに婦人科で経過を見てもらっています」と訴えてお見えになりました。

 話をよくお聞きすると、症状の始まりが毎年、桜が咲くより前の時期に一致することがわかりました。どうも、冬から春と季節の変わり目になると体調が狂っていたようです。

 「精神的にも、春になると不安感を何となく毎日感じて、ちょっとしたことでイライラしてしまいます」と、月経に関連して起こる精神症状として皆さんもよくご存じの「月経前症候群」も、認められました。

 「Hさん、睡眠はどうですか?」というわたしの問いに、「えぇ、よく夢を見るんですよ。寝た気がしなくて、朝起きても疲れていることがあります」とのことでした。そこで便通障害(過敏性腸症候群?)、月経前症候群、睡眠障害という様々な病状に、加味逍遙散(かみしょうようさん)という薬をひとつだけ処方させていただくことにしました。

 その後、なんどかクリニックへお見えになったHさん、いろいろな症状が桜の花が散るように、よくなっていきました。

 不安を感じている人は、神経伝達物質であるアロプレグナノロンが減ってしまっているのですが、加味逍遙散はこれを増やす役割があると言われています。よく男性の癇癪(かんしゃく)持ちにも使われる加味逍遙散は、速効性があり、持続性もありますので、大変使いやすい薬です。

 わたしが、Hさんに加味逍遙散の治療を始めて約1年が経ちました。例年以上に寒さが厳しかった冬も終わり、今年も桜の季節となりました。Hさんが今年も外来へやって来られました。

 開口一番、「今年の春は、何年かぶりに、桜の花を楽しくみることができました。」と弾んだ声でお話しされました。加味逍遙散のお陰で、寒い冬を元気に乗り越えることができ、春を気持ちの良い時間として過ごすことができたようでした。

薬を減らして病気を治す

 新学期の準備、いかがですか? 職場が新しくなる方もおいでになると思います。環境がかわり、新しい出会いに期待がふくらみますね。

 今回紹介するGさんは、約10年前に子宮体がんで手術を受けられ、その後にホルモン療法の副作用と更年期障害が重なって苦労された経験を持つ68歳の女性です。

 最近になって、ほてりがひどくなったため来院されました。「一番困っているのは、突然おこるほてりなんですが、それ以外にも、便秘や不眠などいろいろなことで悩んでいるのでたくさん薬を飲んでいます」と、10種類以上の薬を持参されました。

 ホームドクターから整腸剤と下剤、胃の調子が悪いと言うことで、消化器内科を紹介され制酸剤と胃粘膜保護剤、腰痛があるということで整形外科から鎮痛剤と骨粗鬆症治療薬、心療内科からは抗不安薬と睡眠導入剤、ほかにもサプリメントを数種類お使いになっているとのこと。「苦しくて仕方がないんですよ、先生。最近は夜間の頻尿があり、泌尿器科でも薬をもらいました」と、なんと薬は5人の医師から別々に処方されていました。

ネバーエンディングストーリー

 お書きいただいた問診票も、真っ黒になるぐらい、色々なことが書き込まれていました。そんな、Gさんが小さい頃からの身の上話にはじまり、娘婿や孫の話から年金の話を始めたとき、申し訳ないのですがわたしは内心、予約時間がとうに過ぎてしまい、1時間以上待っている10人近い患者さん達の顔を思い浮かべ、さて、どうしたものか?と考えていました。

 果てしない物語がまだまだ、続きそうな気配を感じたとき、思い切って、話を切り出してみました。「ねぇ、Gさん、いろいろな問題をお抱えのことはよくわかりました。書いていただいた問診票も読ませてもらいました。ただ、Gさんの68年分をこの1回の外来診察ですべて把握することは、わたしには、むずかしいかもしれません。次回、お時間を多めにお取りしてお話しを伺いますので、きょうは、まず、診察をさせていただけますか?」とお願いしてみました。

薬の副作用では?

 そして、一通り診察を受けていただいた後、わたしは、Gさんに「あなたの症状は、薬の副作用だと思います。おかかりになっている先生とよく相談されると良いでしょう。もし、ご自身でうまく説明ができないとお考えならば、わたしから手紙を書きますよ」と診察結果を告げました。薬は処方しませんでした。

 それから2週間後、再び、Gさんがお見えになりました。診察室のいすに座り、いろいろとお話をしたあと、「これまで何人の医師に診察をしてもらったか、自分でもわからないのですが、私の病気はいつも原因がわからないのです。いろいろな薬をいただいても、良くもならず、藁をもつかむ思いで漢方専門のクリニックへ来ました。この2週間、先生にご相談してはじめて薬を減らすことができました」と嬉しそうにお話になりました。「薬を使わないという選択肢があることに、はじめて気がつきました」

総合診療医と漢方医学

 戦後の日本は、医学も日進月歩で発展しました。この進歩についていくために医師達もどんどん専門化、細分化されていきました。この結果、例えば白内障であれば、それを専門とする医師が白内障の手術ばかりを担当するという状況になりました。

 しかし、今回のGさんのように、人は同時にいろいろな病気になりますので、病気の数だけ担当医が必要になってしまいます。この問題を解決すべく、医療界でも「総合診療医」といって、すべての病気を診ることができる専門医を育てようという努力が始まっています。もしGさんの診療を「総合診療医」が担当していたら、今回のような問題は起きなかったはずです。

 夢のような「総合診療医」が育つまでにはまだ時間がかかります。が、漢方医学こそ、総合的に患者さんを診る医療なのです。これからは、漢方医学を学んだ医師がもっと増えていく必要があると、今回の出来事で強く感じました。

ニキビが消えない女性

 今年も、桜が咲き始めましたね。この春、高校の同級生だったドリアン助川くんが書いた小説「あん」のプロローグにも、印象的な桜の話が盛り込まれていました。そんな心ときめく桜の季節が、みなさんの周りにもやってきていることと思います。

 この桜の皮を使った漢方薬をご存じですか? 江戸時代に、解毒、鎮咳、咳嗽、湿疹、蕁麻疹などの治療目的に使われていたそうです。このブログの第1回目に登場していただいた華岡青洲先生が考えた漢方薬で、「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」に配合されていました。この漢方薬は、みなさんが青春時代に一度は悩んだことがあるニキビの特効薬としても知られています。

 今回、初診でお見えになったFさんは30歳代のキャリアウーマンです。口の周りにできたニキビが気になり来院されました。「ポツポツとできはじめ、皮膚科へ受診して抗生物質の内服と塗り薬をもらったのですが、良くならず、3週間が経ってしまった」そうで、何とか来週末の出張までに治してほしいと、まくしたてるようにお話になりました。

 皮膚トラブルで漢方専門外来にお見えになる方のうち、「西洋医学では治らないので来院された」とおっしゃる患者さんの多くは、単なる皮膚トラブルではなく、体調不良があったり、精神的問題を抱えていたりすることが多いように感じています。Fさんのニキビが、出始めたころの話をよくよく聞いてみると、年度末で仕事が忙しく疲れ気味で、過食になっておいででした。

 そこでわたしは「皮膚の病気を治すには、2週間、時間が欲しい」「外来へは数日ごとに、こまめに通院して欲しい」と条件を出しました。というのは、残業続きで体調管理ができておらず、生活のリズムが狂っているように見えたからです。通院することで、仕事のスケジュール管理をしっかりして、生活スタイルを立て直すきっかけとして欲しかったのです。

 初診から数日後、Fさんのニキビは紅みが消えてきました。「抗生物質を止めてから便通がよくなり、お腹がはらなくなりました」と少しゆっくりとお話になるようになりました。しかし、まだどこか緊張感があり、イライラそわそわしている様子がうかがえましたので、再度、数日後に来院していただくことにしました。

 初診から1週間後、Fさんが3回目の診察へお見えになりました。診察室へ入ってくると、「大きなニキビができなくなりました」と嬉しそうにしゃべりはじめました。週末から予定されている出張の準備の話や上司とのトラブルについていろいろとお話になりながら、仕事に追い回されていたことが皮膚トラブルの原因だったのだろうと自ら納得された様子でした。わたしはもう大丈夫だろうと1週間分の処方させてもらいました。

 そして、出張から帰ってきたFさんが外来へお見えになりました。見違えるような笑顔で、「久しぶりにお化粧をしました」と、出張土産の桜茶をお持ちになりました。口の周りのニキビは、もうほとんど見えなくなっていました。

がん術後ケアからの「卒業」

 卒業式の季節になりました。今年、卒業される皆さん、本当におめでとうございます。4月からはすばらしい毎日が待っていると思います。心から応援しております。

 今週、わたしの外来にもこの春で胃がんの手術をして5年が経ち、「卒業」を迎えた78歳のEさんがお見えになりました。

 Eさんは胃がんのため、わたしが2008年2月に腹腔鏡を使った外科手術を執刀させていただき、術後も外来で定期的に経過を診てきた患者さんです。

 Eさんが診察室へ入ってくると、わたしは今回行った諸々の検査結果を説明しました。血液検査、上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査、胸腹部CT検査など、すべての検査結果で問題ありません。するとEさんが「先生、無事5年たったのですね。これでひと安心です」と深々と頭を下げられました。わたしも「そうですね、Eさんも『卒業』ですね」と声をかけました。

 Eさんが以前、「胃がんは、5年間経過をみると大体、再発の心配がないかどうか、わかるんですってね」と少し不安げに質問されたので、「5年生存率といって、統計学的なデータが元になって判断されます」と説明したことを思い出しました。

 「それではEさん、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は目的を達したので今日で終わりにしましょうか?」と、術後の体力低下を改善する目的で、5年間続けていた漢方薬のことを聞きました。するとEさんは「先生、この薬、がんの人しか飲んじゃいけない薬ですか?」と真剣な顔で質問されたのです。

卒業しても同じ薬を

 思いがけない言葉でしたが、わたしは「いえいえ、がん患者さんだけではなく疲労倦怠感がある方にもお出ししますよ。例えば仕事が忙しくて疲れがとれない方や貧血気味で朝起きられない方など、使い方はいろいろですけれどね」と説明しました。Eさんは「この十全大補湯をもうしばらくもらうわけにはいきませんか? わたしはこの薬のお陰で、手術後も体調が良く、風邪もひかず暮らすことができました。先生は卒業とおっしゃりますが、もう少し長く外来へ通いたいのです」と自ら卒業を辞退されたのです。

 十全大補湯は、慢性疾患の全身衰弱に用いられる漢方薬で、四物湯と四君子湯に黄耆(おうぎ)、桂皮(けいひ)を加え、4+4+2=10というネーミングで、がん領域では再発予防にも効果があると考えられています。

 Eさんから卒業辞退の申し入れを受けたわたしは、十全大補湯がEさんの、単にがん再発防止による予後改善に働いていただけではなく、日常生活の質も改善していたのだ気づかせてもらいました。

 5年間、1回の診察時間は短いものでしたが、春夏秋冬、Eさんの学生時代の話や家族のことなど、いろいろな会話を重ねてきました。わたしは、ある時期からは診察室に入ってくるEさんのちょっとした仕草から体調の変化を感じ取ることができるようになっていました。

 わたしは、Eさんからの卒業辞退の申し出に「えぇ、いいですよ。それでは、今日でわたしがEさんの胃がんの主治医からは卒業させてもらいますね。これからはあらためてEさんの健康管理の主治医として診させていただきたいと思います」と笑顔で答えさせてもらいました。

 Eさん、これからも宜しくお願いします。

肌に触れて、話を聞いて…めまい治まる

 きょうから、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も2次ラウンドです。サムライたちが、たくさんの方々の心に残る東日本大震災のキズを、すこしでも和らげてくれることを期待しています。

 さて、今回の話題は、「パソコンの画面を見て、患者さんの顔を見ない」というクリニックを何軒も受診したにもかかわらず、よくならない「めまい」を主訴に来院されたDさんの話です。

 Dさんは60代後半の女性で、「めまい」を自覚されたのは2年前の震災の後でした。わたしの外来には、震災以降、「めまい」の患者さんが増えました。みなさんに共通する症状は、「何か不安になると、めまいがする」というものです。

 Dさんは、毎日、寝るときになると「めまい」がするので、かかりつけの耳鼻咽喉科で耳の検査や頭のMRI検査もしてもらったんだそうです。しかし、原因らしきものはなく、その後、神経内科、脳神経外科、心療内科など何軒かクリニックを受診され、投薬を受けたのですが、よくなりませんでした。

 「横になるのが、怖いんです。だから、まずは座り込んで体を低くしてから、クッションにもたれかかり、その後、少し高い枕に寝た後、寝るためのものに転がりながら移るんです」と、不安げな顔をしながら、小さな声で話されました。

 ご自身でも精神的なものが、めまいの大きな原因になりうることをご存じでした。いろいろとお話をお聞きしながら、ご主人が3年前に亡くなられたときのことや息子さんが遠方で仕事をしておいでになることなど、一通りお話を聞き終えた後、診察をさせていただきました。

 さて、みなさんは、漢方専門の外来でどんな診察をしているか、ご存じですか? 漢方医学の診察は、一般的に内科で行う診察とあまり、かわりません。強いて言えば、舌の所見をよく見たり、脈の所見やお腹の所見の取り方が違っていたりするぐらいです。

 そこで、わたしはDさんの両手をとって、肌に触れて動脈の拍動をゆっくりと診せていただきながら、「それでは、横になってください。お腹を拝見しますよ」とうながしてみました。すると、Dさん、全く躊躇することなく、診察台の上に仰向きに横になったのです!

 わたしは、Dさんのお腹を診察しながら、一呼吸置いた後「ねぇ、Dさん。先ほど、横になるとき、すんなりできましたね。めまい、起こりませんでしたね」とお尋ねしました。すると、「あら、本当だわ!何年ぶりでしょう!こんなに素早く横になれたのは!」と嬉しそうな笑顔をされました。

大切なのは「手当」

 クリニックなどを受診されたとき、医師が電子カルテに向かってキーボードをたたくのに夢中になってしまい、顔も見ずに診察が続けられた経験を皆さんもお持ちだと思います。

 わたしが、漢方外来へいらっしゃる皆さんへ、心がけているのは、「手当てあて」です。わたしは、患者さんの顔をきちんとみながら話を聞き、肌に直接、手をあてることが大切だと考えています。

 漢方医学が育ってきた環境には、現代医学的な検査(血液検査、レントゲン撮影、超音波検査など)がありませんでしたので、いかに患者さんから情報を得るかが大切でした。聴診器すらない時代に、舌の具合から胃腸の状態を診察したり、脈から急性疾患による体調の変化を診たり、腹部所見から体質や精神的変動を診断していきました。

 今回のDさん、これまでに溜まっていた不安をじっくり聞いたこと、しっかりと「手当てあて」をしたことで、薬を使わなくても「めまい」が治ってしまったんだと思います。

眠くならない花粉症の薬

 先日、猫の記事だけが載っている「ねこ新聞」を知り合いから読ませていただきました。どうも、人間と同じように猫も花粉症で苦しんでいるようですね。

 そんな猫もつらいこの季節ですが、花粉症の人間(?)に漢方薬で最も使われるのは、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。「味が少し酸っぱくて飲みにくい」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、おすすめの薬です。

 わたしはこの薬を処方するとき、いつもこの名前が「鼻水(昔は青鼻ともいいました)が、滝のように流れる」という意味に思えて、思わずクスッと笑ってしまいます。この名前の由来は青鼻ではなく、古来中国で四方を守護する四神の一つのことで、西方の白虎、南方の朱鳥、北方の玄武とともに、東方を守護する神獣「青竜」からきています。

抗ヒスタミン剤の眠気が心配な方に

 花粉症に用いられる西洋薬としては、抗アレルギー剤があります。代表的なものは抗ヒスタミン剤で、鼻水や鼻閉感を取ってくれます。しかし、副作用に「眠気」があり、睡眠薬代わりに使っている方もおいでだと思います。わたしはどんなに弱い抗ヒスタミン剤でも、「眠気」に襲われてしまうため、かなり用心して使うようにしています。

 しかし、小青竜湯では「眠気」という副作用がないといわれているので、わたしのように抗ヒスタミン剤に弱い方には、漢方薬をお薦めします。

カバンにいつも小青竜湯

 さて、小青竜湯を処方されたとき、ぜひカバンなどにいつも入れておいてください。

 小青竜湯は、花粉を吸い込んでしまう前に内服しておくと効果的ですが、即効性もあります。内服するのを忘れて外出したときも、カバンの薬を内服すれば、症状が出始めてからでも効果があります。

 ぜひ、漢方薬を上手に使って、花粉症の時期を乗り切りましょうね。

花粉症 体質改善でサヨナラを

 やってきました!スギ花粉。日本人の3~4人にひとりが、花粉症といわれていますが、わたしも昔からこの季節は、憂鬱(ゆううつ)になる「花粉症患者」のひとりです。毎年、スギ花粉情報には敏感に反応してしまいます。特に今年は、飛散量が例年よりも多いと聞いて、「ドキドキ」しています。

くしゃみ、鼻水だけじゃない花粉症の症状

 国民病ともいえる花粉症。点鼻薬、点眼薬、内服薬と様々な治療薬がありますが、やはり、メガネやマスクといった予防策が大切です。いくら薬でアレルギー反応を抑えても、原因となる花粉をたくさん吸い込んでしまえば、体は耐えられなくなり、鼻水、目の痒みばかりか、体がだるくなったり、微熱がでたりと、様々な症状に見舞われます。

漢方薬と西洋薬の併用

 外来でよく聞かれる質問のひとつは、「漢方薬と西洋薬を併用しても良いのでしょうか?」というものです。漢方薬にも、副作用があること、併用薬に注意することなど、以前(2012年12月21日「漢方薬にも副作用があります」)にも書かせていただきました。一般的に花粉症に使われることが多い「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」には、麻黄(まおう)と甘草(かんぞう)が含まれているので、注意が必要です。

私も体質改善に取り組んでいます

 「漢方薬で体質改善したら、花粉症は治りますか?」と聞かれると、「私も以前は、ひどい花粉症だったのですが、克服しつつあります」とお答えしています。

 実際には、漢方薬を飲むだけで花粉症から抜け出そうとしているわけではありません。花粉症の誘因となる寝不足や過労、暴飲暴食などをできるだけ避ける努力や、点眼薬、点鼻薬をうまく使い、飛散量が多いと予測される日は、漢方薬と一緒に西洋薬も使っています。

 こんなことを書くと「な~んだ、やっぱり漢方薬は効かないじゃないか」とおっしゃる方がお見えでしょうね。しかし、わたし自身の経験から言うと、花粉症には漢方薬を使うだけではなく、漢方医学の知識を使って対応することが大切だろうと考えています。漢方医学では「未病(みびょう)を治(じ)す」という予防医学の考え方が最も大切で、「薬を飲んでおけば大丈夫」という乱暴なやり方はお薦めできません。

寒さにはトリカブトの「毒」?

 中学・高校と男子校に通っていたせいでバレンタインデーには、よい思い出がないのですが、今年の2月14日も毎年のように世間の騒ぎとは疎遠にすごさせていただきました。

大学病院からの紹介

 数年前に大腸がんの手術を受け、無事、再発もなく経過し、長く勤めた会社も今年、定年退職する予定のDさん、「体に合った漢方薬を処方してもらうように、紹介状(診療情報提供書)をもらってきました。」と昨年暮れ、外来へおみえになりました。「大学病院の主治医からは牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)を数年前から処方していただいています。ずっと調子が良かったのですが、今年の寒さは体にこたえます。」と、ブルッと体を震わせました。

 いろいろとお話を伺うと、寒くなってきてから、お腹にカイロを入れているけれど、体が冷え、腰が重く感じること。夜中にこむら返りが起きること。などを話していただきました。これは、漢方医学で「寒」という状態です。

スパイスの効かせ方

 わたしは、「よい先生にいいお薬を頂いておいでですね。しかし、震災以降、どうも気候の変化が厳しいようで、今年はいつも通りの処方でうまくいかない方が多くお見えです」と説明させていただき、「いまお使いの薬にスパイスを加えましょう」と附子(ブシ)末を一緒に内服していただくようにしました。

 再診した(年末年始をはさんだので)3週間後、「先日の大雪以来、手足が氷のようになっています」とのこと。さらに附子末を増量してみました。

 初診から5週間経った2月、「なんだか嘘のように、体が温まっています。例年ですと必ずひどい風邪をひくのですが、今年は家族が風邪に罹(かか)っても、私一人、元気でした」と満足していただきました。

毒を使って体を治す

 今回使った「附子(ブシ)」は、「トリカブト殺人事件」で有名なトリカブトの根から作られた薬草です。使うには、アコニチンという神経毒のことを理解しておく必要があります。もし、トリカブトを間違って食べてしまうと、はき気、嘔吐(おうと)などの中毒症状から呼吸困難に陥ってしまいます。たまに中毒がニュースになるフグの毒も、神経毒の一種です。

 薬として使われている附子(ブシ)末は、弱毒化されており、安心して使えるようになっています。ただ、アコニチンに対する反応は個人差がありますので最初に内服してもらう場合は、指先でほんの一粒、なめてもらいます。すこし舌が痺れますが、その後、のぼせ、頭痛、動悸などがなければ大丈夫です。

 末梢血管を拡張させ血流改善し、「寒」に対する治療薬として用いるばかりでなく、鎮痛効果があり、神経保護作用が証明されていますので、しびれや痛みにも用いられます。