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過去のコラム【2025年アーカイブ】

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第75回 日本東洋医学会学術総会 市民公開講座 

「東洋医学を〝科学〟する 正しく学う!漢方薬・鍼灸の活用法」 
※ 申し込み不要・無料  会場:京王プラザホテル本館 4F花C(第6会場)  日 時: 6 月 8 日( 日 ) 14:00~16:00 
最新科学の視点での漢方薬の活用法  今津 嘉宏 (芝大門いまづクリニック)

【はじめに】日本で最も古い医療行為として、『古事記』(和銅5年(712年)太安万侶 編纂)に記載された「因幡(いなば)の白ウサギが、蒲の穂で傷を癒やした話」は、みなさんもご存じでしょう。蒲の穂は、北海道から九州まで、浅い水辺に自生するミズクサです。ソーセージの形に似た穂綿の花粉は、蒲黄(ほおう)とよばれ、イソラムネチンを含み、血管収縮作用による止血効果があります。

【風邪(かぜ)は、「風邪(ふうじゃ)」】まだ、顕微鏡の発見される1590年よりも前は、目に見えない悪魔や邪鬼が風邪の原因と考えていたのでしょう。医療用語では、「かぜ症候群」といい、鼻腔から喉頭までの気道の急性の炎症による症状を呈する疾患をいいます。(日本呼吸器学会)

漢方医学で最も読まれている本のひとつが、『傷寒論(しょうかんろん)』(後漢末期(250年頃)張仲景 編纂)です。その名の通り、感染症の治療方法が詳しく書かれています。

新型コロナウイルスによるパンデミックで、みなさんも経験されたように、鼻症状からはじまる人、ノドからはじまる人など、人それぞれ初発症状は同じではなく、その時の体調によっても、病気のすすみ具合が変わります。

1954年に世界で初めて長野泰一や小島保彦がウイルス感染症により白血球から放出されるサイトカインを発見しました。この発見をきっかけに、ウイルスに感染すると身体の中でいろいろなサイトカインが化学反応を起こすことがわかるようになりました。このサイトカインの経時的変化が、みなさんが風邪にかかったときに経験する症状の変化を解明してくれました。

風邪の原因となるウイルスや細菌が、身体の中へ入ると熱をだすサイトカインが一気に体中をかけめぐる状態となります。その後、身体を治すためにエネルギーを使うため身体のだるさがはじまり、エネルギー不足となると食欲の低下や下痢などになり、場合によっては会社を休むほど体調を崩します。

この経時的変化を漢方医学では、太陽病(たいようびょう)、少陽病(しょうようびょう)、陽明病(ようめいびょう)、太陰病(たいいんびょう)、少陰病(しょういんびょう)、厥陰病(けっちんびょう)に分類し、「六病位(ろくびょうい)」と呼びます。現代の私たちは、サイトカインの変化を知り、「傷寒論」に記載されている六病位の変化を、簡単に理論的に理解出来るようになりました。

【蘭学と漢方医学】1804年(文化元年)世界で初めて、全身麻酔による乳がんの手術が、華岡清州によって行われました。オランダ医学で外科学を学び、漢方医学を父親から学んだ華岡清州は、今も使われている十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)や紫雲膏(しうんこう)なども創薬しました。

【おわりに】黒船来航以後、明治政府は江戸幕府に変わり、医師の免許を制度化しました。残念なことに昔から受け継がれていた日本伝統医学である漢方医学を医師国家試験に採用しませんでした。このため、脈脈と受け継がれていた漢方医学は衰退の一途をたどりました。それから100年余りが経過し、漢方医学に潜む秘密を現代科学でときほぐす時がやってきたのです。

ウナギにかける山椒には、副交感神経からアセチルコリンを分泌させて消化管を働かせるだけでなく、血管壁にある受容体を刺激して血流を増やし、炎症によって起こる血流障害や浮腫を改善する働きをすることがわかりました。山椒を含む「大建中湯(だいけんちゅうとう)」は、お腹のトラブルに広く活用されています。

経験や言い伝えで使われていた漢方薬が、科学的に解明されていくことで、古くて新しい現代の漢方医学をみなさんの健康管理に役立ててください。