過去のコラム【2015年アーカイブ】
« コラム 一覧へ戻る体調不良の原因の多くは体の冷え。体温を上げる生活習慣に切り替えると、体調にうれしい変化が現れます。今津嘉宏先生に冷えのメカニズム、体温を上げる方法などを教えていただきました。
体温を1℃上げると、さまざまな不調が改善!
25年間外科医として、手術前後の患者さんを毎日診てきた今津嘉宏先生。その経験から、病気を患っている人の体温が低いことを実感したといいます。また、患者さんの中には、検査結果では特に異常がないのに、長年体調不良に悩まされているという人も。こうした人たちの不調は、体温を上げる生活習慣を指導することで解消されることも多いそう。
「つまり、体を冷やすことが体調をくずす原因であり、それがやがて病気に進行します。逆に言えば、体温を上げることで多くの病気が予防できます」
では、なぜ体温が低いと不調になるのでしょうか。それには「酵素」の働きが大きくかかわっています。
「私たちの体にとってなくてはならないのが酵素。食べ物から取り込んだ栄養を体内で分解して吸収する際にも、不要になったものを分解して排出する際にも、酵素が必要なのです。そこで、体温を酵素が最も活発に働く温度、37 ℃前後にキープし、効果的に酵素を働かせると体調がよくなります」
37℃というのは体の中心の温度。人間の体は外側よりも中心部のほうが温度が高いので、通常私たちが脇の下などで測る温度であれば、36・5℃程度がよいということになります。
「ベストな体温を保つためには、体の内側から温めることが大切。中心部、すなわち消化器官を温めるのが効果的です」と今津先生。冷たい飲食物はできるだけ避けましょう。
「とはいえ、アイスクリームを食べたいとき、冷たいビールを飲みたいときもあるでしょう。そういうときは、10〜30分くらい前に、何か常温の物を食べておきましょう。胃が温まるので、冷たいものが入ってきても極端に胃が冷えることはありません」
そのほか、日々摂取する栄養で冷えにくい体をつくることも大切です。
「体内で熱を生産しているのは筋肉。筋肉量が少ないとエネルギーの生産ができないので筋肉をきちんとつけることも大事です。筋肉を作る材料となるタンパク質を、肉や魚、大豆食品などから積極的にとるようにしましょう」
また、冷えるということは、血流が滞っている状態。「漢方医学では『瘀血(おけつ)』と呼ばれ、女性に起きるさまざまな不調の原因と考えられています」。血液の状態をよくし、血流をよくする鉄、ビタミンB12、銅、葉酸なども十分摂取したいものです。
にんにく、長ねぎ、しょうがなどは、代謝を促して体を温める食材。日々の食事に上手に取り入れましょう。
「体を温めるイメージのある唐辛子ですが、温まるように感じるのは唐辛子の痛み刺激によるもの。実は発汗作用によって熱を下げる食べ物なので、食事のスターターに少量加える程度に」
今後、OurAgeの「ヘルシーごはん」内で、料理家沼津りえさんの、
体温をあげる「ひとり小鍋」メニューを順次ご紹介していきます。
この冬は、とびきりおいしい(しかも簡単)あったかレシピで、ヘルシーに過ごしましょう!
撮影/板野賢治 冨樫実和
料理・スタイリング/沼津りえ
構成・原文/瀬戸由美子
女性ホルモン(エストロゲン)量の低下により、さまざまな症状が現れるのが更年期障害。とくにホットフラッシュやのぼせ、肌老化の予防に効果があると、ホルモン補充療法を選択する女性が増えています。ただ、副作用もあることから二の足を踏む方も多いのも現状。漢方治療も行っている「芝大門いまづクリニック」の今津嘉宏先生に、漢方治療とホルモン療法の違いについて聞いてみます。
「ホルモン補充療法も、漢方も薬の種類が違うだけで、薬剤を用いることにはかわりません。ホルモン補充はケミカルだからダメ、漢方治療は緩やかにしか効果がでないからダメと決めつけてしまう医師は、両方の良さを知らないのでしょう」
漢方は緩やかにしか効果が出ない。副作用がないけれど、効果もじわりじわりとしか出ないと思っている女性は多いと思うのですが、違うのでしょうか?
「ケミカルな薬は即効性があって、漢方治療は即効性がないと思われている方はたくさんいらっしゃいますね。でも、それは大間違い。漢方も薬です。副作用もありますし、即効性もあります。じわりと効果が出ると信じて、長期間に渡り効果のない漢方薬を飲んでいるのも間違いなんです」
漢方も薬。だとすると、ホルモン補充療法と漢方治療の選択は「身体に優しそう」といったイメージで決めるものではないんですね。
「どれも薬なので、きちんとした効果があるものを選択し処方します。副作用があるものは、それを考慮して、その人が使える薬を選択する必要がありますね。卵巣がんや乳がんの経験がある方にはホルモン補充療法は使えません。更年期障害に用いられる漢方薬は、女性ホルモン作用がなく、症状を改善するので、癌の経験がある人も使えることが分かっています。そういった薬理効果をきちんと把握して、処方してもらうことが最も大切ですし、受ける側も副作用のことなどを聞く習慣をつけておくと良いと思います」
今津先生は、ホルモン剤と漢方薬をどのように処方されるのでしょうか?
「僕は、両方に利点があると思っているので、少量のホルモン補充をしながら、漢方治療で不調を改善したりもします。もちろん、その方の症状や体質に合わせて処方するので、使う漢方薬は複数ありますが……。漢方薬は症状が治まったら出しません。だいたい2週間を目処にしています。症状が改善したら飲まなくて良いし、改善しない場合は違う漢方薬を処方します」
漢方薬は2週間でやめるか、処方を替えるのですか?
「改善しないのは、薬があっていないからです。なので、あなたにより合った処方に切り替えていく。最初に出した漢方薬にプラスすることもありますし、薬を替えることもあります」
その人に合った処方があるのが漢方医学なのでしょうか?
「簡単にいうと、西洋医学は、症状を改善する薬や治療法が主体です。西洋医学は今ある症状を和らげる、治すのが目的です。漢方医学は、根本からの治癒を目指します。今ある症状だけでなく、症状の背景もすべてまとめて治していきます。風邪を引きやすい、寒さに弱い、月経痛が酷い、甘いものが好きといった生活の中で感じていることも一緒に診るんですね。そうすると、何が今の症状と関連していて、足を引っ張っているのかが見えてきます。たとえば腹痛で受診された方でも、痛み止めを処方するのではなく、「冷え」による腹痛であれば、根本原因にあるから、そこである「冷え」を改善する漢方薬をまず処方しましょうといった具合ですね」
症状が出ている原因は、女性ホルモン量の低下以外にも、別にあるということですか?
「西洋医学的に考えると、女性ホルモン量が正常範囲内にあれば、症状があっても更年期障害ではないと診断されます。からだの状態が正常でも、逆に検査値が正常範囲から出て、低い数値だと更年期障害と診断されて、ホルモン補充をしましょうとなる。でも、検査の数値の正常値は何千人の検査結果の平均値であって、その人にとって低いのか、通常なのか? は分からない。もしかしたら、数値が低い状態があなたにとっては通常の状態かもしれませんよね。漢方医学では、症状にスポットを当てて、その症状が出ている原因を探ります。原因を探るのに時間が必要な場合もあるので、何回か診察させて頂くうちに漢方薬を替えることがあるんですね」
漢方医学の診たてで、西洋医学の薬を使ったり、漢方薬を使ったりするのでしょうか?
「僕の場合は、癌検診やエコーといった、必要な検査もしっかり受けてもらいます。さらに、漢方医学で大切にしている生活習慣に関する質問、食事に関することも多数するので、診たても西洋医学と漢方医学を取り入れ多面的に診ますし、処方も多面的なんですね」
先生のように、いろんな面から診て、処方して貰える医師はどのように探したら良いのでしょうか?
「更年期障害であれば、まず婦人科で漢方薬を使える医師を探すといいでしょう。日本東洋医学会(http://www.jsom.or.jp/)という学会に所属している医師の一覧がサイトに出ていますので、そこに所属している医師であれば、西洋と漢方の両面からアプローチしてくれます」
漢方が処方できるだけでなく、婦人科医であることも重要ですか?
「漢方医や漢方薬局の先生は、漢方のプロですが、婦人科のプロではないんですね。内科で漢方を使えても、婦人科のプロではない。なので、更年期障害の治療で漢方も混ぜて考えたい場合は双方のバランスがとれた婦人科で漢方医を探すのがベストです」
総務省の統計で80歳以上の人口が初めて1000万人を超えた。これからの課題は“健康な状態で長生きすること”と言ってもいい。仕事に接待に忙しいサラリーマンにはまだ先の話のようだが、今から注意できることはいくつもあるという。
「115歳が見えてくる“ちょい足し”健康法」(ワニブックス)の著者で芝大門いまづクリニックの今津嘉宏院長が言う。
「朝食は吉野家の焼き魚定食、昼食はリンガーハットのちゃんぽん、夕食は焼き肉の食生活で健康は目指せます。何を食べるから体に悪いではなく、いつもの食事に“ちょい足し”することで健康になれる条件を知れば今までの生活スタイルを変えなくてもいい。何にもやらないより、1個でもやればその分、健康でいられる時間が長くなる。週に2回改善すれば年間3分の1、30%がプラスに変わるんです。ものすごい効果です」
メーンメニュー+「α」の分がカギを握るというのだ。具体的には“何を足す”といいのか? 今津院長の食生活から考えてみよう。
「朝食のオススメは『焼き魚定食』です。吉野家の場合、総カロリーは555キロ。朝のエネルギー補充にちょうどいい。魚の脂はDHA、EPAといって動脈硬化を防ぐ効果が確認されています。また、人間の体は朝は鉄分の吸収がいいので、アサリやシジミの味噌汁を付ければベストですね。お昼の『野菜たっぷりちゃんぽん』(リンガーハット)は野菜が480グラム入っています。この一杯で一日に必要とされる野菜を摂取できるわけです。すべて国産であり、私も毎週1回食べています。ほかには、定食屋の『レバニラ炒め』もオススメ。昼は血液を作る作用のあるビタミンB12の吸収がいい。ビタミンB12が豊富なレバーと繊維質の多いニラの組み合わせは最強です」
バイキングの場合は、自分で注ぐ味噌汁にワカメを多く入れる。サラダも繊維の濃いゴボウやレンコンを入れる。納豆などの豆類も食べるなど、“ちょっとした工夫”を怠らないという。
夕食はどうか? 付き合いや接待で自分でメニューを選べない日も多いが、ここでも“チョイ足し”精神だ。
「例えば、焼き肉は何が問題かというと脂身が多いこと。脂の吸収を減らせばいいのです。脂を吸着してお腹の外に出してくれる繊維質を取りましょう。サラダに入っているレタスなど水溶性の繊維より、エリンギやシイタケのような不溶性の繊維はタワシで擦るように強力にお腹の掃除をしてくれる。鍋で煮込んで煮崩れしないのが不溶性です」
焼き肉のお供にはサンチュより、キノコ焼きがいいそうだ。
また、これからはインフルエンザの季節。体調を崩さないため体を温める工夫も忘れてはいけない。
「人間の体は魔法瓶みたいな形をしているので、最初に温かいものを入れると保温効果があります。起きぬけは白湯を取る。仕事後の会食で冷えたビールを飲む前に、お腹の中に常温のお菓子1個でもいいので体に入れておきましょう。体を温める食材は、ネギ、ショウガ、ニンニク、ニラですが、これらはそば屋、ラーメン屋、牛丼屋のトッピングで無料だったりしますよね。多めに盛るだけで効果はあります」
「先生の専門は、何ですか?」
よく聞かれることのひとつに、私の診療の専門があります。そんなとき私は「外科です」と答えます。すると「漢方ではないのですか?」と聞かれますので「漢方も専門です。さらに、がんについて専門に診療を行っています」と付け加えます。
私は栄養学、緩和ケア、在宅医療についても、大学で講義をしています。どれも専門だと言ってもよいかもしれません。ですから、私のクリニック(http://imazu.org)は、「内科、消化器内科、外科、肛門外科、放射線科 、漢方腫瘍内科(がん漢方)、漢方内科、漢方産婦人科」などを
「がん漢方」についても聞かれます。私の造語です。日本中の1500人の医師・薬剤師の皆さんへ、がん診療で使う漢方薬について講義をさせていただいたとき、私が編集を担当した「がん漢方」(http://www.nanzando.com/books/42581.php)という本を教科書にさせていただきました。この中には、抗がん剤の副作用を軽くするためにどうやって漢方薬を使うかについて、薬理学的に説明しています。がんによって低下した食欲を改善するために使う漢方薬を様々な研究結果から説明しています。決して、言い伝えや経験だけの漢方ではなく、科学的なものだけをまとめたものです。
「漢方内科」では、西洋医学と東洋医学、両方を使った診察と治療を行います。例えば、風邪の患者さんの場合、胸の音がおかしく肺炎を疑えばレントゲンを撮らせていただきますし、抗生物質を飲んでもいただきます。漢方薬では、体力回復を目指します。決して、西洋医学だけ、東洋医学だけ、と分けて行うものではありません。両方の
漢方産婦人科では、内診はしません。女性のための漢方診療です。男性と女性では、同じ病気でも、使う薬が違います。薬の量も違います。使い方も違います。女性独特の症状、月経に関わる症状、妊娠・出産、更年期障害などを漢方薬で治していきます。
今回で「いのちに優しく いまづ医師の漢方ブログ」は、150回を迎えました。これも応援して頂いた皆様のおかげだと、心から感謝しております。まだまだ、伝えたかったことがたくさんあります。もし、もっと知りたいという方には、2014年に出版した「89.8%の病気を防ぐ上体温のすすめ」(ワニブックス)や、2015年10月8日に出版する「115歳が見えてくる“ちょい足し”健康法」(ワニブックスPLUS新書)を参考にしてくださいね。そして、また、どこかで、皆様とお会いできることを心から楽しみにしております。最後に、皆様が楽しい毎日をお過ごしくださいますように、心からお祈りしています。
このブログは、東京都港区麻布十番にある麻布ミューズクリニックで働いていた時、始めさせていただきました。麻布ミューズクリニックは、女性のための美容と健康の漢方クリニックでした。それまで、慶応義塾大学や済生会中央病院で、外科医として医療に携わってきましたが、まったく方向性の違ったクリニックでの診療となりました。
私はこのクリニックで、約1万人の女性を診察させていただくという貴重な機会をいただき、多くのことを学ぶことができました。
教科書や学校では学べないことを、患者さんから学ばせていただきました。例えば、男性にとってはそれほど苦痛でもない会社のクーラーも、女性にとっては、体調不良の原因になることや、気圧の変化で頭痛やめまいが起こるという女性特有の訴えがあることなどです。
私は、麻布ミューズクリニックにいらっしゃった患者さん全員に、
外科医だった頃には気付かなかったお腹のサインがあります。おへその下の馬の
実は、お腹の診察は外科医としても大切な技術です。外科医だった私にとって、外科的なお腹の診察方法と漢方医学の腹診の両方の技術を身に付けたことで、さらに患者さんの役に立つ医療になる力になりました。
私が、漢方医学を学び始めた当初、頭の中で描いていたのは、西洋医学と漢方医学の融合でした。そして、麻布ミューズクリニックの患者さんから多くを学ぶことで、それを実践することができるようになりました。今、私自分のクリニック(http://imazu.org/)で西洋医学と漢方医学を融合した医療で、患者さんに恩返しさせていただいております。
東京都港区にある私のクリニックでは、患者さんから教えていただいたこと一つ一つを大切にしています。西洋医学では診断がつかないときや治療法が見つからないときは、漢方医学で診察します。漢方医学で足りないものは、栄養療法を活用し、さらに患者さんの教えを加えて、皆さんの健康のために診療を続けています。
西洋医学と漢方医学の融合によって、「体を温めること」「睡眠を大切にすること」に気付きました。今、この二つのことを中心に本を執筆中です。来月には、皆さんにお見せできると思います。楽しみにしていてくださいね。
患者さんから教えていただいたことを大切にして、皆さんが毎日を元気で健康に過ごせるように、少しでも役立つ話を書かせていただきました。どうか、楽しい毎日をお過ごしくださいますように、心からお祈りしています。
2012(平成24)年11月2日から、始めさせていただいたこのブログも、今月で卒業させていただくことになりました。これまで、応援していただきましたみなさん、有り難うございました。残り4回、どうか、最後までお付き合いくださいね。
今回の話は、「祖母からの教え」です。みなさんもそれぞれに、祖父母や両親から教えてもらった生活の知恵があると思います。そんな「祖母からの教え」を基に、昨年10月、「上体温のすすめ」という本を書かせていただきました。実は、この本に書かなかった「祖母からの教え」が先日、役に立ちました。
ある日、私は仕事から帰り、家の中を
子どもの頃、古い日本家屋だった縁側の廊下は、木の板でできていました。裸足で歩いていた私は、木のとげを足の裏に刺すことがよくありました。そんなとき、裁縫の針を使ってとげを抜く方法を祖母から教わりました。まず、とげの刺さった角度をよく確認します。どちらから、どの角度で刺さっているかを確認できたら、あとは同じ角度で針をゆっくりと入れます。このとき、とげの後ろ側へ針を入れるのがコツです。
この方法は、医師になってからも、大変役立っています。外科外来に受診された患者さんのとげを抜くとき、裁縫の針の代わりに、注射器の針を使っています。痛みもなく、簡単にとることが出来ます。
もうひとつ祖母から教わった切り傷や擦り傷の治療法があります。子どもの頃の私は、本当によく、転んで膝をすりむいていました。
この方法は、医学的に考えてみると、傷の管理方法の新しい考え方に、ピッタリと当てはまっています。3つのポイントで説明します。一つめのポイントは、怪我をしたとき、傷が後から化膿しないように、よく洗浄することが大切です。洗うときは、水道水が一番手軽で簡単にできます。たっぷりの水道水で、しっかりと傷を洗い流すことがポイントです。
二つめのポイントは、消毒は最低限にすることです。しっかり消毒をすると傷の治りが悪くなることがあります。そして、三つめのポイントは、傷を乾燥させることです。傷が化膿するのを防ぐためには、乾燥させることが大切です。
「上体温のすすめ」を読んでいただいた読者から、いろいろと教えていただくことがあります。世代や地域が異なっても、共通することがあることに驚きます。それは、身体を冷やすと風邪を引く、寝不足は禁物、といった当たり前のことなのです。しかし、この当たり前のことに、真実が隠されていることに改めて気付かされます。
ぜひ、みなさんも、祖父母や両親からの教えを大切にしてください。そして、自分の子ども、そして孫へ、その教えを伝えていってください。お願いします。どうか、みなさんが明るく笑顔で毎日を送ることが出来ることを心からお祈りしています。
夏も終わりに近づき、身体の疲れを感じている方もいらっしゃると思います。そんなときは、呼吸を整えるとよいでしょう。
人の命にとって、もっとも大切なものは、空気です。生まれてから息絶えるまで、人は、空気がなければ生きていられません。空気がなければ、数分以内に死んでしまいます。こんなに大切な空気の存在をおろそかにしてはいけませんね。サボることなく絶え間なく行われている空気を取り込む動作、それが呼吸です。
空気は、さまざまな成分でできています。窒素が約78%、酸素が約21%、二酸化炭素が0.04%です。微量成分としては、アルゴン、ネオン、一酸化炭素、ヘリウム、クリプトン、キセノン、メタンなどがあります。
空気の成分のうち、人の体に利用するものは、酸素と二酸化炭素です。血液の中にあるヘモグロビンは、空気中の酸素を効率的に体の中へ取り入れ、体の中の二酸化炭素を効率的に肺から体の外へはき出すようになっています。このため空気中の酸素濃度が低い場所でも、人は、酸素をうまく取り込むことができます。
ハムスターの呼吸回数は、1分間に約135回といわれています。犬や猫は約30回、人間は約20回、馬は約15回、象は約5回と、生き物の呼吸回数は、様々です。中には、呼吸回数と寿命に関係があるという説を唱える人もいらっしゃるようです。
呼吸は、意識しないで働く自律神経がコントロールしています。自律神経は、運動したり緊張したりしているときに働く「交感神経」と、休んでいるときに働く「副交感神経」で成り立っています。交感神経中心の状態では、呼吸回数が増えやすく、手足への血流は減少し、末端は冷えてしまいます。さらに、呼吸回数を増やしていくと、「過換気症候群」と同じ状態になります。酸素が増え、二酸化炭素が減ります。すると、血管は収縮し、手足の末端への血液の流れは低下します。
健康のための呼吸法があります。呼吸法は大きく分けると、胸で一杯空気を吸い込む方法と、おなかを使って吸い込む方法があります。一般的に、女性は、胸で呼吸をしていることが多く、「胸式呼吸」と呼ばれています。これに比べて男性は、おなかの筋肉を使って呼吸をしているそうです。これを「腹式呼吸」と呼びます。腹式呼吸は、正確にいうと、おなかの筋肉を使っているのではなく、横隔膜を主に使う呼吸法です。
胸式呼吸と腹式呼吸は、どちらも呼吸をすること自体に変わりがありません。しかし、主に使っている筋肉が違うため、呼吸による疲労感や肺活量などに影響があります。
胸式呼吸は、
腹式呼吸は、交感神経と副交感神経のバランスから考えると、副交感神経が主に働く呼吸です。精神的にも肉体的にも、リラックスした状態になりやすい呼吸です。リラックスした状態は、体中の筋肉を和らげてくれます。すると末梢の血管への血液の流れが良くなり、温かい血液が手足末端まで流れてくれます。これによって、夏の疲れをとることができます。
皆さんが、元気で明るい毎日を過ごすために、呼吸を大切にしてみてはいかがでしょうか。
「夏の昼間は、暑いので運動不足なります」と訴える方が、たくさんいらっしゃいます。たしかに、今年の夏は記録的な暑さで、日中、外で体を動かすのは控える必要がありました。
しかし、このところは、朝夕に涼しい風が吹くようになりました。そろそろ、体を動かすチャンスがやってきたようです。それでは、体の調子を整えるためには、何をすればよいのでしょうか? 最も簡単な方法は、朝のラジオ体操です。
朝のラジオ体操は、健康な体を作るだけでなく、1日をけがなく過ごすためにも大切です。朝、十分に筋肉と関節を動かしておくことで、体の調子を整えることができます。
朝のラジオ体操には、これ以外にも大切な効果があります。それは、体を温められるからです。体を動かすことで、熱が生み出されます。実は、体の熱を作る最大の生産工場は、筋肉だからです。朝、筋肉を動かしておくと、まるで、体中の関節に潤滑油を差したように、スムーズに動かすことができるようになります。
決して、息が上がるような激しい運動をする必要はありません。体の関節をゆっくりと動かすことだけで十分です。
朝、体を動かしておくことで、体調管理ができるわけです。人の体も、車のエンジンも、しっかりと温めてから使わないと、壊れやすくなります。「人間と機械を一緒にするな」と、お叱りになる方もお見えでしょう。
私も、人の体の仕組みは、機械よりも複雑だと考えています。決して、同じとは考えていません。しかし、精密機械を使って検査をしたり、ものを作ったり、車のエンジンを動かしたりしたときなど、必ず、機械がちゃんと動くかどうか、確認をしておく必要があります。それぞれの歯車が、うまく回り、寸分の狂いもなく動くためには、慣らし運転を繰り返す必要があります。部品一つ一つの温度が安定しないうちは、歯車自体が、うまくかみ合わないことがあります。金属でできた歯車は、温度によって、大きさが変化するからです。すべての歯車が一定の温度になるまで、慣らし運転を続けた後、やっと検査を行ったり、ものを作ったりすることができるようになります。
人の体も、同じです。体が冷えたままで、急に走ったりすると、筋肉を痛めたり、関節をおかしくしてしまいます。スポーツをされる方であれば、おわかりと思いますが、準備運動をしたときと、しなかったときでは、体の動きに違いが出ます。
準備運動をちゃんと行ってから、スポーツをした場合は、体がスムーズに動いてくれます。しかし、準備運動をせず、体が冷えたまま動かすと、思い通りに体が動かず、良い成績が出ません。どんな簡単な運動をする場合でも、必ず、準備運動を行い、体を十分に温めてから行うことが重要となります。
ぜひ、体を動かしましょう、すべての関節をゆっくりと動かしてみましょう。みなさんの毎日が明るく健康で過ごすことができるように、心からお祈りしています。
「どんな野菜でも、一年中あると思っている人が多くなったの」と、わたしのクリニックの近所にある八百屋のおかみさんが嘆いておいででした。最近は、夏に冬の野菜がないか、冬に夏の野菜がないか、と尋ねる人が増えているのだそうです。
夏野菜の代表選手であるトマトやキュウリも、一年を通して手に入る野菜になりました。農業技術が進歩して、野菜の旬の時期はだんだんとなくなってきています。海外からの輸入野菜も増え、一年を通して欲しい野菜が手に入るようになりました。
体調管理を考えると、それぞれの季節に合わせて、旬の野菜をとることは大切なポイントになります。漢方医学では春夏秋冬、それぞれの季節の野菜には役割があるとされています。
夏野菜は、暑い夏を乗り切るために、必要な成分を含んでいると考えられています。夏野菜には「体を冷やす作用」がありますので、この猛暑の中、夏バテ予防には最適です。しかし、寒い冬に夏野菜をたくさんとってしまうと、体調を崩す原因になります。それぞれの季節の野菜の特性を知ることで、季節ごとの健康管理ができるようになります。
夏は、日差しが強く、暑い時期です。直射日光に当たり、ばてている体は、熱射病にならないように水分を必要としています。夏野菜にはキュウリ、ナス、ピーマン、トマトなどがあります。最近では、どれも一年中手に入る野菜です。しかし、ウリ科の植物であるキュウリは、とうがん、スイカ、ゴーヤなどの仲間です。昔、たわしに使われたヘチマも仲間です。ウリ科の野菜は、水分を豊富に含んでいるのが特長です。また、カリウムも含むため、塩分と水分を体の外に出す作用が期待できます。お年寄りや、心臓が悪く足がむくむ人には、必要な野菜のひとつです。
ナス科の植物であるナスは、ピーマン、トマトなどの仲間です。ナス科の植物は、ビタミンやミネラルなどの栄養が豊富に含まれていますが、注意しなくてはいけないことがあります。それは、ソラニンという物質です。学校の調理実習で、ジャガイモの芽には毒があるので取り除くように指導されたことがありませんか。実は、ジャガイモもナス科の植物です。ナス科の植物の多くは、ソラニンを含んでいます。
このソラニンは、神経に作用する毒です。ソラニンによる中毒症状は、数時間後に表れる、
ソラニンをとらないようにするためには、太陽光に当たって緑色になったジャガイモの芽、未熟なジャガイモの皮の緑色の部分、未熟なトマトなどを食べるのは避けることです。ソラニンは水に溶けますので、水にさらしたり、煮込んだりすれば、毒性がなくなります。
夏の季節、水分不足になるのを予防するため、ウリ科の植物を積極的にとることが大切です。そして、ナス科の植物で、不足がちになるビタミンやミネラルを効率よく補うことです。
残暑厳しい中、どうか、夏野菜を
毎日、暑い日が続きます。汗を一杯かいた後に、冷たい飲み物をグッと一気したときの爽快感はたまらないものです。しかし、冷たい物ばかりを飲んでいると、お腹(なか)を冷やし、体調が悪くなってしまいます。
暑い時期に、お腹を冷やさないようにするためのポイントは、食事の順番です。
世界遺産になった和食を例に取ります。日本料理は、バランスがとれていて、低カロリー食です。油を使う量も少なく、魚中心の料理となります。健康管理に心がけている人にとっては、理想的な食事スタイルだと思います。日本料理の代表的なコースを考えてみましょう。
長い伝統に裏打ちされた和食が持つ、知識と経験は、すばらしいものです。懐石料理では「飯・汁・向付、煮物、焼物、預け鉢、吸物、八寸、湯と香の物、菓子」という順番で運ばれます。最初に出される料理は、温かい料理「飯・汁・向付」です。
一品一品をみれば、温かい飯、温かい汁のつぎに、野菜の和(あ)え物やおひたしといった冷たい向付が、選ばれることがあります。温かい料理ばかりでなく、冷たい料理も組み合わされています。この組み合わせを考えると「飯・汁・向付」全体としては、温かい料理となります。
次から、温かい「煮物」、温かい「焼物」と続きます。「預け鉢」は、炊き合わせや酢の物といった冷たい料理が選ばれます。そして、温かい「吸物」、冷たい「八寸」、温かい「湯」と冷たい「香の物」と続きます。そして、最後に「菓子」です。いかがでしょうか?
温かい料理と冷たい料理のバランスが、わかっていただけたと思います。
日本料理をみてみると、非常に合理的で、バランス感覚に優れ、身体(からだ)に優しく、健康管理には、最適な料理だということがわかります。日本料理の神髄をうまく取り入れて、日常の健康管理に活(い)かしていきたいものです。しかし、現実には毎食、コース料理を食べ続けることは、なかなか難しいと思います。
胃腸を冷やさないためには、最初に口にする料理に温かい料理を選ぶことです。胃腸は、温度によって働きが変わります。胃腸は、温度が下がると働きも低下し、温度が上がると働きも活発になります。身体を温める栄養素を効率よく吸収するためには、胃腸を冷やさないようにすることが大切です。
夏の暑い日、よく冷えたビールを一気に飲み干し、「これが生きがいだ」というサラリーマンのお父さんにとっては、耳に痛い話です。しかし、健康管理のためには、温かいものを先に胃腸に入れておく必要があります。
一度冷え切ってしまった胃腸を再び、回復させるには時間と手間がかかります。美味(おい)しいビールを飲む30分前におつまみを一口食べておくなど対策をとっておくといいでしょう。
暑い夏、みなさんが、元気で健康な毎日をお過ごしになりますように、心からお祈りしております。