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「祖母からの教え」…生活の知恵を活用する

2012(平成24)年11月2日から、始めさせていただいたこのブログも、今月で卒業させていただくことになりました。これまで、応援していただきましたみなさん、有り難うございました。残り4回、どうか、最後までお付き合いくださいね。

 今回の話は、「祖母からの教え」です。みなさんもそれぞれに、祖父母や両親から教えてもらった生活の知恵があると思います。そんな「祖母からの教え」を基に、昨年10月、「上体温のすすめ」という本を書かせていただきました。実は、この本に書かなかった「祖母からの教え」が先日、役に立ちました。

 ある日、私は仕事から帰り、家の中を裸足はだしで歩いていたら、チクと痛みが走りました。すぐに、自分の足の裏を見てみると、小さな傷から血が出ていました。そおっと触ってみると、チクチクする感覚が残っていました。まだ、とげが足の裏に残っているようでした。そこで私は、昔、祖母から習った、とげの抜き方を実践しました。

 子どもの頃、古い日本家屋だった縁側の廊下は、木の板でできていました。裸足で歩いていた私は、木のとげを足の裏に刺すことがよくありました。そんなとき、裁縫の針を使ってとげを抜く方法を祖母から教わりました。まず、とげの刺さった角度をよく確認します。どちらから、どの角度で刺さっているかを確認できたら、あとは同じ角度で針をゆっくりと入れます。このとき、とげの後ろ側へ針を入れるのがコツです。

 この方法は、医師になってからも、大変役立っています。外科外来に受診された患者さんのとげを抜くとき、裁縫の針の代わりに、注射器の針を使っています。痛みもなく、簡単にとることが出来ます。

 もうひとつ祖母から教わった切り傷や擦り傷の治療法があります。子どもの頃の私は、本当によく、転んで膝をすりむいていました。怪我けがをした時、祖母は、傷を消毒したり、絆創膏ばんそうこうを貼ったりしませんでした。祖母からは、「子どもの傷は、なめておけば治る」と教えられました。ですので、私には、絆創膏を貼った記憶がありません。子どもの頃は、怪我をすると水道水で傷を洗った後、ペロッとなめていました。

 この方法は、医学的に考えてみると、傷の管理方法の新しい考え方に、ピッタリと当てはまっています。3つのポイントで説明します。一つめのポイントは、怪我をしたとき、傷が後から化膿しないように、よく洗浄することが大切です。洗うときは、水道水が一番手軽で簡単にできます。たっぷりの水道水で、しっかりと傷を洗い流すことがポイントです。

 二つめのポイントは、消毒は最低限にすることです。しっかり消毒をすると傷の治りが悪くなることがあります。そして、三つめのポイントは、傷を乾燥させることです。傷が化膿するのを防ぐためには、乾燥させることが大切です。

 「上体温のすすめ」を読んでいただいた読者から、いろいろと教えていただくことがあります。世代や地域が異なっても、共通することがあることに驚きます。それは、身体を冷やすと風邪を引く、寝不足は禁物、といった当たり前のことなのです。しかし、この当たり前のことに、真実が隠されていることに改めて気付かされます。

 ぜひ、みなさんも、祖父母や両親からの教えを大切にしてください。そして、自分の子ども、そして孫へ、その教えを伝えていってください。お願いします。どうか、みなさんが明るく笑顔で毎日を送ることが出来ることを心からお祈りしています。

呼吸について考える…夏の疲れをとるために

夏も終わりに近づき、身体の疲れを感じている方もいらっしゃると思います。そんなときは、呼吸を整えるとよいでしょう。

 人の命にとって、もっとも大切なものは、空気です。生まれてから息絶えるまで、人は、空気がなければ生きていられません。空気がなければ、数分以内に死んでしまいます。こんなに大切な空気の存在をおろそかにしてはいけませんね。サボることなく絶え間なく行われている空気を取り込む動作、それが呼吸です。

 空気は、さまざまな成分でできています。窒素が約78%、酸素が約21%、二酸化炭素が0.04%です。微量成分としては、アルゴン、ネオン、一酸化炭素、ヘリウム、クリプトン、キセノン、メタンなどがあります。

 空気の成分のうち、人の体に利用するものは、酸素と二酸化炭素です。血液の中にあるヘモグロビンは、空気中の酸素を効率的に体の中へ取り入れ、体の中の二酸化炭素を効率的に肺から体の外へはき出すようになっています。このため空気中の酸素濃度が低い場所でも、人は、酸素をうまく取り込むことができます。

呼吸回数は、増やした方がよいのか、減らした方がよいのか?

 ハムスターの呼吸回数は、1分間に約135回といわれています。犬や猫は約30回、人間は約20回、馬は約15回、象は約5回と、生き物の呼吸回数は、様々です。中には、呼吸回数と寿命に関係があるという説を唱える人もいらっしゃるようです。

 呼吸は、意識しないで働く自律神経がコントロールしています。自律神経は、運動したり緊張したりしているときに働く「交感神経」と、休んでいるときに働く「副交感神経」で成り立っています。交感神経中心の状態では、呼吸回数が増えやすく、手足への血流は減少し、末端は冷えてしまいます。さらに、呼吸回数を増やしていくと、「過換気症候群」と同じ状態になります。酸素が増え、二酸化炭素が減ります。すると、血管は収縮し、手足の末端への血液の流れは低下します。

深呼吸をしましょう

 健康のための呼吸法があります。呼吸法は大きく分けると、胸で一杯空気を吸い込む方法と、おなかを使って吸い込む方法があります。一般的に、女性は、胸で呼吸をしていることが多く、「胸式呼吸」と呼ばれています。これに比べて男性は、おなかの筋肉を使って呼吸をしているそうです。これを「腹式呼吸」と呼びます。腹式呼吸は、正確にいうと、おなかの筋肉を使っているのではなく、横隔膜を主に使う呼吸法です。

 胸式呼吸と腹式呼吸は、どちらも呼吸をすること自体に変わりがありません。しかし、主に使っている筋肉が違うため、呼吸による疲労感や肺活量などに影響があります。

 胸式呼吸は、肋骨ろっこつを広げることで肺の中へ空気を取り込むため、肋骨を動かす肋間筋を主に使います。このため、意識して速く呼吸をしたとき、例えば、運動しているときや緊張して深呼吸をするときなど、胸式呼吸になります。腹式呼吸は、横隔膜という大きな筋肉を使っています。腹式呼吸は、リラックスしたときや寝ているときなど、無意識に行われる呼吸です。

腹式呼吸をしましょう

 腹式呼吸は、交感神経と副交感神経のバランスから考えると、副交感神経が主に働く呼吸です。精神的にも肉体的にも、リラックスした状態になりやすい呼吸です。リラックスした状態は、体中の筋肉を和らげてくれます。すると末梢の血管への血液の流れが良くなり、温かい血液が手足末端まで流れてくれます。これによって、夏の疲れをとることができます。

 皆さんが、元気で明るい毎日を過ごすために、呼吸を大切にしてみてはいかがでしょうか。

体を動かしましょう…それには十分な準備運動が大切

「夏の昼間は、暑いので運動不足なります」と訴える方が、たくさんいらっしゃいます。たしかに、今年の夏は記録的な暑さで、日中、外で体を動かすのは控える必要がありました。

 しかし、このところは、朝夕に涼しい風が吹くようになりました。そろそろ、体を動かすチャンスがやってきたようです。それでは、体の調子を整えるためには、何をすればよいのでしょうか? 最も簡単な方法は、朝のラジオ体操です。

 朝のラジオ体操は、健康な体を作るだけでなく、1日をけがなく過ごすためにも大切です。朝、十分に筋肉と関節を動かしておくことで、体の調子を整えることができます。

 朝のラジオ体操には、これ以外にも大切な効果があります。それは、体を温められるからです。体を動かすことで、熱が生み出されます。実は、体の熱を作る最大の生産工場は、筋肉だからです。朝、筋肉を動かしておくと、まるで、体中の関節に潤滑油を差したように、スムーズに動かすことができるようになります。

 決して、息が上がるような激しい運動をする必要はありません。体の関節をゆっくりと動かすことだけで十分です。

 朝、体を動かしておくことで、体調管理ができるわけです。人の体も、車のエンジンも、しっかりと温めてから使わないと、壊れやすくなります。「人間と機械を一緒にするな」と、お叱りになる方もお見えでしょう。

 私も、人の体の仕組みは、機械よりも複雑だと考えています。決して、同じとは考えていません。しかし、精密機械を使って検査をしたり、ものを作ったり、車のエンジンを動かしたりしたときなど、必ず、機械がちゃんと動くかどうか、確認をしておく必要があります。それぞれの歯車が、うまく回り、寸分の狂いもなく動くためには、慣らし運転を繰り返す必要があります。部品一つ一つの温度が安定しないうちは、歯車自体が、うまくかみ合わないことがあります。金属でできた歯車は、温度によって、大きさが変化するからです。すべての歯車が一定の温度になるまで、慣らし運転を続けた後、やっと検査を行ったり、ものを作ったりすることができるようになります。

 人の体も、同じです。体が冷えたままで、急に走ったりすると、筋肉を痛めたり、関節をおかしくしてしまいます。スポーツをされる方であれば、おわかりと思いますが、準備運動をしたときと、しなかったときでは、体の動きに違いが出ます。

 準備運動をちゃんと行ってから、スポーツをした場合は、体がスムーズに動いてくれます。しかし、準備運動をせず、体が冷えたまま動かすと、思い通りに体が動かず、良い成績が出ません。どんな簡単な運動をする場合でも、必ず、準備運動を行い、体を十分に温めてから行うことが重要となります。

 ぜひ、体を動かしましょう、すべての関節をゆっくりと動かしてみましょう。みなさんの毎日が明るく健康で過ごすことができるように、心からお祈りしています。

暑い夏は野菜で乗り切りましょう

「どんな野菜でも、一年中あると思っている人が多くなったの」と、わたしのクリニックの近所にある八百屋のおかみさんが嘆いておいででした。最近は、夏に冬の野菜がないか、冬に夏の野菜がないか、と尋ねる人が増えているのだそうです。

 夏野菜の代表選手であるトマトやキュウリも、一年を通して手に入る野菜になりました。農業技術が進歩して、野菜の旬の時期はだんだんとなくなってきています。海外からの輸入野菜も増え、一年を通して欲しい野菜が手に入るようになりました。

 体調管理を考えると、それぞれの季節に合わせて、旬の野菜をとることは大切なポイントになります。漢方医学では春夏秋冬、それぞれの季節の野菜には役割があるとされています。

 夏野菜は、暑い夏を乗り切るために、必要な成分を含んでいると考えられています。夏野菜には「体を冷やす作用」がありますので、この猛暑の中、夏バテ予防には最適です。しかし、寒い冬に夏野菜をたくさんとってしまうと、体調を崩す原因になります。それぞれの季節の野菜の特性を知ることで、季節ごとの健康管理ができるようになります。

 夏は、日差しが強く、暑い時期です。直射日光に当たり、ばてている体は、熱射病にならないように水分を必要としています。夏野菜にはキュウリ、ナス、ピーマン、トマトなどがあります。最近では、どれも一年中手に入る野菜です。しかし、ウリ科の植物であるキュウリは、とうがん、スイカ、ゴーヤなどの仲間です。昔、たわしに使われたヘチマも仲間です。ウリ科の野菜は、水分を豊富に含んでいるのが特長です。また、カリウムも含むため、塩分と水分を体の外に出す作用が期待できます。お年寄りや、心臓が悪く足がむくむ人には、必要な野菜のひとつです。

 ナス科の植物であるナスは、ピーマン、トマトなどの仲間です。ナス科の植物は、ビタミンやミネラルなどの栄養が豊富に含まれていますが、注意しなくてはいけないことがあります。それは、ソラニンという物質です。学校の調理実習で、ジャガイモの芽には毒があるので取り除くように指導されたことがありませんか。実は、ジャガイモもナス科の植物です。ナス科の植物の多くは、ソラニンを含んでいます。

 このソラニンは、神経に作用する毒です。ソラニンによる中毒症状は、数時間後に表れる、口渇こうかつ、興奮、幻覚、けいれん、頻脈、発熱などの症状と、12時間後に表れる、嘔吐おうと、下痢、腹痛、頭痛、徐脈、溶血作用、中枢抑制、呼吸困難などがあります。

 ソラニンをとらないようにするためには、太陽光に当たって緑色になったジャガイモの芽、未熟なジャガイモの皮の緑色の部分、未熟なトマトなどを食べるのは避けることです。ソラニンは水に溶けますので、水にさらしたり、煮込んだりすれば、毒性がなくなります。

 夏の季節、水分不足になるのを予防するため、ウリ科の植物を積極的にとることが大切です。そして、ナス科の植物で、不足がちになるビタミンやミネラルを効率よく補うことです。

 残暑厳しい中、どうか、夏野菜を沢山たくさん食べて、元気で明るい毎日をお過ごしくださいね。

暑い夏だからこそお腹を冷やさないように注意しましょう

毎日、暑い日が続きます。汗を一杯かいた後に、冷たい飲み物をグッと一気したときの爽快感はたまらないものです。しかし、冷たい物ばかりを飲んでいると、お腹(なか)を冷やし、体調が悪くなってしまいます。

温かい料理を先に胃腸へ入れることがポイント

 暑い時期に、お腹を冷やさないようにするためのポイントは、食事の順番です。

 世界遺産になった和食を例に取ります。日本料理は、バランスがとれていて、低カロリー食です。油を使う量も少なく、魚中心の料理となります。健康管理に心がけている人にとっては、理想的な食事スタイルだと思います。日本料理の代表的なコースを考えてみましょう。

 長い伝統に裏打ちされた和食が持つ、知識と経験は、すばらしいものです。懐石料理では「飯・汁・向付、煮物、焼物、預け鉢、吸物、八寸、湯と香の物、菓子」という順番で運ばれます。最初に出される料理は、温かい料理「飯・汁・向付」です。

 一品一品をみれば、温かい飯、温かい汁のつぎに、野菜の和(あ)え物やおひたしといった冷たい向付が、選ばれることがあります。温かい料理ばかりでなく、冷たい料理も組み合わされています。この組み合わせを考えると「飯・汁・向付」全体としては、温かい料理となります。

 次から、温かい「煮物」、温かい「焼物」と続きます。「預け鉢」は、炊き合わせや酢の物といった冷たい料理が選ばれます。そして、温かい「吸物」、冷たい「八寸」、温かい「湯」と冷たい「香の物」と続きます。そして、最後に「菓子」です。いかがでしょうか?

 温かい料理と冷たい料理のバランスが、わかっていただけたと思います。

 日本料理をみてみると、非常に合理的で、バランス感覚に優れ、身体(からだ)に優しく、健康管理には、最適な料理だということがわかります。日本料理の神髄をうまく取り入れて、日常の健康管理に活(い)かしていきたいものです。しかし、現実には毎食、コース料理を食べ続けることは、なかなか難しいと思います。

まずは胃腸を守ること

 胃腸を冷やさないためには、最初に口にする料理に温かい料理を選ぶことです。胃腸は、温度によって働きが変わります。胃腸は、温度が下がると働きも低下し、温度が上がると働きも活発になります。身体を温める栄養素を効率よく吸収するためには、胃腸を冷やさないようにすることが大切です。

 夏の暑い日、よく冷えたビールを一気に飲み干し、「これが生きがいだ」というサラリーマンのお父さんにとっては、耳に痛い話です。しかし、健康管理のためには、温かいものを先に胃腸に入れておく必要があります。

 一度冷え切ってしまった胃腸を再び、回復させるには時間と手間がかかります。美味(おい)しいビールを飲む30分前におつまみを一口食べておくなど対策をとっておくといいでしょう。

 暑い夏、みなさんが、元気で健康な毎日をお過ごしになりますように、心からお祈りしております。

日本を代表するがん医師たちが秋葉原に集結

がん患者さんとその家族の皆さん、医療従事者、そして、市民の皆さんのための最新がん医療フォーラム「AKIBA CANCER FORUM 2015」が8月8日、東京都千代田区の秋葉原UDXで開催されます。このフォーラムは、各分野を代表する医療者による50近い講演や、子どもを対象としたプログラム、映画、ヨガ、患者会展示などが、すべて無料で参加できます。

 

がん医療の進歩は著しく、臨床研究も進み、各疾患の診療ガイドラインもできています。また新しい医療技術、医薬品の登場により、がん医療の個別化も進んでおり、患者がより良いがん医療を受ける環境が整ってきています。

しかしながら、がん患者とその家族の皆さんは、がんの治療を行わない放置治療や、科学的根拠が不十分なサプリメント、代替療法など、いわゆる「ジャンク情報」にもさらされています。

がんを「知り」「学び」、そして「集い」ましょう!

このフォーラムでは、日々進歩する最新がん医療情報や、現在問題となっているがん医療のテーマを取り上げ、がんを「知り」、がんを「学び」、がん患者、家族、医療者が「集い」、勇気、希望が持てるフォーラムになることを目的に開催されます。たとえば、小学生から高校生を対象とした手術用医療機器の体験セミナーでは、実際に、医療現場で使われている電気メスや内視鏡を使って、模擬手術を体験することができます。(http://www.cancernet.jp/acf/program/surgery-experience

また、シアターでは、「エンディングノート」「50/50」「ぼくたちの家族」「希望のちから」の4本の映画が上映されます。もちろん、わたしも夕方5時から、「がんと漢方薬」と題して、約1時間お話しさせていただくことになりました。どうか、多くの方に参加していただきたいと思います。

そして、クロージングセッションでは、「がん100万人時代をどう生きるか?」について、それぞれの領域において活躍する方々をお招きし、その問題の共有と提言を議論していただく予定です。わたしの後輩の秋月玲子先生も参加する予定です。こちらもどうぞ、よろしくお願いします。

よい情報をより詳しく知るために、多くの皆様が参加していただけるよう願っています。

熱中症の予防には水分補給、日傘、帽子…漢方薬も

夏の日差しが、肌に刺さる日が続きます。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。とくに熱中症には注意が必要ですが、熱中症、日射病、熱射病の言葉の違いをみなさんはわかりますか。

熱中症は、太陽光など夏の暑い環境「暑熱環境」で生じる障害の総称で、熱けいれん、熱疲労、熱射病に大別されます。特に、太陽光によって体が脱水になっている状態を日射病ということもあります。

熱中症になると、水分が足りず脱水状態になるために、体が動かせなくなることや、体温が上がったために、めまいや痙攣(けいれん)などの症状などが起こります。夏の暑い日、家の中でも、外でも、体調が悪くなれば熱中症の可能性があります。

熱射病は致命的な状態を引き起こす

砂漠の上をゆらめく太陽をまぶしく見つめながら、フラフラと歩く姿、まるで映画のワンシーンのように、脱水状態を引き起こす熱射病は、炎天下で起こりやすい症状のひとつです。

脱水状態になると、体の水分が足りなくなることで、口が渇き、尿の量が減ります。脱水状態は、脳、心臓、肺、肝臓、膵(すい)臓、腎臓などの重要な臓器に、酸素と栄養を運ぶことができなくなります。このため「脳貧血」と呼ばれる意識障害を起こして、倒れてしまうことや、「ショック状態」と言われる、血圧の低下、脈の乱れなどの心臓の症状、肺機能障害による「呼吸困難」症状、過換気、息苦しさなどが起きます。これ以外にも、脱水状態によって、脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞(エコノミークラス症候群)など、命に関わる状態を招きます。

体の外から熱が加わった状態なら冬でも熱中症になる

夏の暑い日は、熱中症にならないよう注意が必要です。太陽光で体が熱されることにより、脱水状態や意識障害を引き起こすからです。熱中症は、夏だけではありません。

冬の寒い日にも起こります。銭湯で熱めのお湯につかりすぎたときや、サウナに長時間入りすぎたとき、フラフラになった経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。あの高温によるふらつきやめまいは、熱中症のひとつです。人は体の外から温めすぎると体調を崩し、意識状態が悪化し、場合によっては命を落とすこともあるわけです。

熱中症予防には漢方薬の活用も

熱中症の予防には、水分補給だけでなく、日傘、帽子を使うことが大切です。そして、漢方薬をうまく活用するとよいでしょう。

1.夏場の胃腸障害に、胃苓湯いれいとう

夏ばての体に油ものは、胃もたれや腹痛の原因になることがあります。また、冷たい物ばかり飲んでいると、体がだるくなり、胃腸の調子も悪くなります。そんなときに、胃苓湯が活躍します。胃苓湯は、夏の胃腸障害を治してくれる漢方薬です。口の渇き、体の浮腫むくみ、胃腸不良、下痢などを治してくれます。

2.夏ばてに、清暑益気湯せいしょえっきとう

炎天下を仕事で走り回っているうちに、だんだんと体力が奪われていきます。寝苦しい夜が続き睡眠不足も重なります。こんなときに、清暑益気湯が活躍します。清暑益気湯は、夏の体調を整え、体力低下を補ってくれます。

暑い夏がやってきました。どうかみなさん、熱中症に注意して毎日を元気で健康にお過ごしくださいね。

マラソンせずとも熱中症には注意しましょう

皇居の前を通ると、老若男女が元気に走る姿を見ることができます。2015年2月22日に開催された、東京マラソンには、3万5797人の方が参加されたそうです。

 「東京がひとつになる日。」をテーマに開催された、この東京マラソンには、たくさんのボランティアが参加しました。わたしの仲間にも、東京マラソンを陰で支えた医師がいます。

 学生時代から陸上競技を続けている堀口速史さんは、東京マラソン2015医療救護委員会ランドクター統括責任者を務めました。彼は、いつも輝く笑顔で患者さんに接する呼吸器専門医です。走ることが大好きな彼のが、参加するランナーの安全と健康をしっかりと見つめていたことで、大会は無事に行われたと思います。

 そんな堀口くんが、「マラソンの最高峰」に位置付けている、第68回富士登山競走が、7月24日に開催されます。「3776mの頂を目指して」行われるこの大会は、富士吉田市役所から吉田口登山道を経て、山頂にいたる21kmを駆け上がる過酷な競技です。

 なんと、スタート地点とゴール地点の標高差は、約3000mになります。夏に開催される大会は、体調管理も難しく、堀口くんは、「平地を走る競技とは違うトレーニングが必要なんですよ」と、キラキラ光る瞳で語ってくれました。

 私たちも毎日の生活で、強い日差しを浴び、熱中症に注意する必要があります。水分の補給ばかりでなく、直射日光を防ぐ工夫が必要になります。そんなとき、漢方薬をうまく活用するとよいでしょう。

1.水分コントロールに、五苓散ごれいさん

 暑さに負けて、冷たい物ばかり飲んでいると、体がだるくなり、胃腸の調子も悪くなります。暑い夏は、水分の補給は必要ですが、飲み過ぎに注意する必要があります。そんなときに、五苓散が活躍します。五苓散は、水分コントロールをしてくれる漢方薬です。口の渇き、からだの浮腫むくみ、胃腸不良などを治してくれます。

2.熱のコントロールに、黄連解毒湯おうれんげどくとう

 太陽光線によって皮膚が真っ赤になってしまったときや、暑さにのぼせてフラフラするときがあります。体温の上昇により、中枢神経が負けてしまい、倒れてしまう場合もあります。こんなときに、黄連解毒湯が活躍します。黄連解毒湯は、熱をコントロールしてくれる漢方薬です。のぼせ、火照り、日焼けなどを治してくれます。

 暑い夏がやってきました。どうか皆さん、熱中症に注意して、毎日を元気で健康にお過ごしくださいね。

1日野菜350グラムが目標…食物繊維の摂り方を考えましょう

 みなさんは、野菜をたくさん食べていますか。

 健康・体力づくり事業財団の「健康日本21」が目標としている1日に必要な野菜の量は、350グラム以上です。キュウリに例えると、だいたい3本ぐらいになります。

 仕事で忙しいみなさんにとって、350グラムはなかなかハードルが高いと思います。

 そこで、コンビニなどで売っている「飲む食物繊維」を活用されている方もたくさんいらっしゃるでしょう。手軽に食物繊維をることができますから、健康に気を配っている方にとって、大変ありがたい飲み物ですね。

 しかし、本当にこれだけでいいのでしょうか。

 食物繊維には、水に溶けるもの(水溶性食物繊維)と、水に溶けないもの(不溶性食物繊維)があります。「飲む食物繊維」は、水に溶ける食物繊維が入っているわけです。私たち日本人には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を1:2の割合で摂るように勧められています。

 不溶性食物繊維には、大切な役割があります。不溶性食物繊維は、腸の有害物質を吸着する働きをしていて、身体に有害なものを掃除してくれているのです。

 便秘や下痢に悩んでいる方は、積極的に不溶性食物繊維を摂るとよいと思います。

 それでは、どんな食べ物に不溶性食物繊維が多く含まれているのでしょうか。それは、キノコやワカメなどです。ちょうど料理の出汁だしをとる代表的なものが、豊富に不溶性食物繊維を含んでいます。調理の方法は、煮ても、焼いても、いためても大丈夫です。どんな食べ方をしても、しっかりと不溶性食物繊維を摂ることができます。

 キノコとワカメを毎日、健康のために食べることで、腸の中の有害物質を掃除することができるわけです。素晴らしい食品ですね。

 どうか、みなさん、上手に水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を組み合わせて、毎日の食生活を健康で元気になるように工夫しましょう。

【阿部純子のトレンド探検隊】うつ病から認知症まで“こころの不調”に用いられる漢方治療

 アレルギー疾患、高齢者疾患、婦人科疾患、皮膚科疾患などに渡って用いられ、いまや最先端医療のひとつとして世界的に評価されている漢方治療。「体・心・肌」の不調を治す漢方薬は、うつ病や認知症、睡眠障害といった精神的な病気や症状に対しても有効であることがわかっている。

 こころの不調に対し、どのように漢方医療が関わっているのか、「芝大門 いまづクリニック」院長の今津嘉宏さんのセミナーに参加して話を伺った。

 外科医としてキャリアをスタートした今津さんは、がん治療に携わる中、抗がん剤や放射線治療による副作用に苦しむ患者を目の当たりにして、その解決法を模索する中で漢方を学び始める。婦人科領域に漢方医学を取り入れていた産婦人科医の村田高明さんに師事し、漢方医学の基礎を学び、外科学と漢方医学の融合を目指してきた。

「こころはどこにあるか難しい。精神的なものは脳だろうし、機能としては心臓になる。現代医学的にこころの不調を考えると、こころは神経系、免疫系、内分泌系、からだは循環器系、呼吸器系、消化器系と細分化されてしまう。

 こころの不調を西洋医学で治療するとなると、精神科、心療内科、免疫系、内分泌系、産婦人科など、原因を探るにはいろいろな科に行かなければならない。西洋医学の考え方だと、本来のあり方からどんどん遠ざかってしまうイメージがある。

 対して漢方医学はとてもシンプルな考え方だ。漢方薬の観点からこころを見ると『気』というひとつの言葉で表現できる。こころに関わるものは『気』のほかに『血』『水』があり、この3つに関連している薬を処方すればよい。漢方治療をしながら、必要であれば専門医療機関へ紹介することができるので、漢方薬は漢方医療と西洋医療のキャッチボールするためのハブとしての役割があると思う」

◆自律神経に作用する漢方薬

 脳でこころに関わるのは、感情、情緒、理性。漢方では「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」の7つの感情の変化をいう。

 ストレスや怒りを感じたとき、アロマやヨガ、運動、入浴など人それぞれに気分転換があるが、気分の切り替えがうまくできず、脳を休めることをさせないと、うつ病になる可能性がある。現在ではうつ病は生活習慣病のひとつになっており、こころが疲れたために脳に負担がかかり起こるといわれる。漢方医学では「気」に問題にある状態なので、気を改善する薬を使う。

 代表的なものは「蘇葉(そよう)」、これは赤シソの葉で、気を調整するときに使う漢方薬の原料。殺菌作用だけでなく気分を調整してくれる薬として使うことができる。蘇葉が入っている漢方薬が「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」。

「陳皮(ちんぴ)」とはみかんの皮で、「枳実(きじつ)」は熟していない状態のダイダイなどの果実。両方とも気を巡らせるときに使う薬草で「香蘇散(こうそさん)」に使う。香蘇散には蘇葉も含まれている。「桂皮(けいひ)」はシナモンのこと。このように日常生活でも摂れるような材料を漢方は取り入れている。

 こころの中で神経系の中心となるものが、交感神経と副交感神経で、自律神経とは交感神経と副交感神経の両方のバランスを指し、自律神経のバランスが崩れると体の調子や、精神的な不調を訴えるようになる。

 交感神経はアドレナリン、副交感神経はアセチルコリンというホルモンが働いている。交感神経が働いているときはいわば戦闘態勢で、心拍数が早くなる、呼吸が荒くなる、手に汗をかくなどの状態が起こる。血管を収縮し血流を下げているので手足が冷える。副交感神経が働いているときは、呼吸が穏やかでリラックスした状態になり、ねむくなったり、空腹を感じたりする。血管を広げて血流を良くするため手足は温かくなる。

 漢方医学では「気・血・水」の中でも水のバランスを良くすると、自律神経のバランスは良くなる。めまいやふらつき、耳鳴り、頭痛、足のむくみ、冷えは漢方医学でいうと水のバランスが悪い=自律神経のバランスが悪いということになる。この治療に用いるのが「五苓散(ごれいさん)」。五苓散は「猪苓(ちょれい)」「茯苓(ぶくりょう)」「蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)」「沢瀉(たくしゃ)」「桂皮」の5種類の生薬から成る。

◆認知症、アルツハイマーに作用する漢方薬

 急激に高齢化社会が進む日本では、2020年には65~75歳よりも、75歳以上のパーセンテージの方が上回る。平均寿命が長くなると浮上するのが健康寿命の問題で、認知症の中でも増加するアルツハイマー型認知症に対する対策を見直す必要がある。

「抑肝散(よくかんさん)」は、夜泣きや疳の虫に処方されてきた漢方薬で、英語ではメンタル・コントロール・メディスンと呼ばれるように、感情、理性を調整してくれる作用があることが近年の研究で判明している。

 抑肝散はうつ病、メンタルケアだけでなく、認知症における行動、心理症状に伴う各症状を改善するという治療効果が報告されている。アルツハイマー型認知症の薬物治療に用いられる薬は、副作用として日常生活動作(ADL)に支障をきたし、つまずいたり、転びやすくなるが、抑肝散はそれを起こさないということがわかっている。

 また、現在がん治療を行っている患者にも漢方を処方されることがあるが、これは抗がん剤の副作用の軽減や生活の質(QOL)を良くすることが目的で、免疫や全身症状を改善させるという意味で使われている。

 CDDP(シスプラチン)という抗がん剤の副作用は腎機能障害で、がんは治るが副作用で苦しむケースも多い。CDDPを投与された患者に、漢方薬を併用したところ、腎臓の機能を低下させずに抗がん剤としての効果は減らしていないことがわかった。こういったデータを提示して、実際の現場でも漢方薬を処方している。

 免疫機能は人間の体は外から入ってくるものを取捨選択して、受け入れていいものか毒なのかを分けているが、ジャッジするのが腸管免疫。舌で味覚を確かめる、強い胃酸で菌を殺す、小腸、大腸で良いものと悪いいものを仕分けるなど、腸管免疫は体を守る防御機能になっている。

 腸管免疫には腸内細菌が関係しているが、昔の人は腸内細菌に関係する薬は、腸管免疫にも作用すると知っており、腸管免疫に働く漢方薬が生まれた。漢方では気の分類に入り、消化器を調整する薬としては薬用人参をメインに他の漢方を組み合わせたものを使う。

◆性ホルモンに作用する漢方薬

 男性と女性ではホルモンの変化が異なり、2週間単位で女性はホルモンバランスが変わり、男性と比べて変化の大きい女性ホルモンが精神的にも大きな影響を与える。

 女性ホルモンは物忘れ、認知症、脳血流、アルツハイマー、更年期症状など、脳に影響を及ぼすホルモンといわれている。精神的な要因が大きい拒食症の比率を見ると女性は男性に比べると10倍になっている。うつ病は男性に対し女性は2倍、認知症は3倍だ。

 漢方薬を処方する場合、同じ症状でも男性と女性では処方する薬が違うという。女性は「血の道症」といった、月経前症候群、出産後母体症候群、更年期症候群といった女性ホルモンの変化による症状が出ることも多い。こういった場合は「血(けつ)」に働く漢方薬が処方される。

 女性ホルモンに作用する薬は3つあり、「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」は「血(けつ)・水」の異常に働き、記憶学習能力、睡眠の改善、卵巣機能、免疫機能を改善する。「加味逍遥散(かみしょうようさん)」は「気・血」に働き、更年期障害を改善する。「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」は「血」に働き、冷えやのぼせを改善する。

 漢方医学の本場は中国だと思われているが、漢方医学は日本で培われた日本独自の医学体系で、中国の伝統医学である「中医学」や韓国の伝統医学「韓医学」とは、診断方法や治療法が全く異なるという。また、西洋医学と漢方医学の双方を一人の医師が処方できるのは日本だけだ。

 漢方薬は改善が見られなければ変えることができ、2週間、早い時は3日で変えることもあるという。漢方薬はずっと続ける必要はなく、良くなったらやめてよい。

 漢方薬は全身状態を改善しながら、悩んでいる症状も改善するような効き方なので、ドクターショッピングをしても改善が見られないと悩む場合は、漢方医学の専門医師に相談してみるのも手段として有効ではないだろうか。漢方薬は保険医療が適用されるので、医師にかかれば保険で処方ができる。

文/阿部 純子