コラム
あれから12年が過ぎ、iPS細胞を発見した山中伸弥教授がノーベル医学賞を受賞し、これまで難治と考えられた病気にも治療の光が当たる可能性が見えてきました。iPS細胞は遺伝子工学と医学の融合です。医学が進歩するためには、それぞれの時代に、他分野のすぐれた点を取り入れ、融合していくことが重要といえそうです。
わたしは、外科医として1988年、慶應義塾大学医学部外科学教室にお世話になり外科学の手ほどきを受けました。そして1997年からは産婦人科医であり漢方医でもある村田高明先生(日本臨床漢方医会理事長)に師事し漢方医学の基礎を学びました。村田先生は月経前症候群、更年期障害、不妊症など産婦人科領域に漢方医学を積極的に取り入れた方です。
こうして私は約25年間、医師として医療に携わり、現代における外科学と漢方医学の融合を目指してきました。
「外科医がどうして漢方を?」とよく聞かれます。私は外科医として、メスだけでは治すことができない病気、抗がん剤や放射線を組み合わせても難渋する病気と向き合ってきました。やがて、最先端医療である西洋医学では治すことができない病気も、全く正反対にある伝統医学「漢方」を学ぶことで解決の糸口を見いだすことができるのではないのか?と考えるようになりました。
その当時、わたしのまわりにいる外科医は、漢方医学のことを馬鹿にすることはあっても、学ぼうとする人は皆無でした。奇人変人扱いをされる日々が続きましたが、それでもコツコツと昼間はメスを握り、夜は漢方医学を学ぶ日々を送ってきました。
そして、先ほど触れた第100回外科学会の記念郵便切手を見たとき、わたしの気持ちが間違っていなかったことを確信しました。そこには、華岡青洲(1760~1835)と、彼が開発した麻酔薬「通仙散」の主剤であるチョウセンアサガオが意匠として描かれていたからです。世界で初めて全身麻酔に成功した外科医・華岡青洲が目指した医療は、まさに和洋折衷、西洋医学と漢方医学の融合に他ならなかったからです。
勇気をもらったわたしは、その後さらに外科学と漢方医学の融合を目指すことになりました。これからはじまるブログは、そんな外科医の漢方四方山話です。