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コラム

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健康なときこそ、かかりつけ医を持ちましょ

みなさんは、渋谷駅前にある忠犬ハチ公の銅像が、2代目だということをご存じですか。1934(昭和9)年に作られた初代ハチ公像の原型を、5月24日まで松濤美術館(東京・渋谷区)で開催されている「いぬ・犬・イヌ」展で見ることができます。

 今回も、学芸員によるギャラリートークが開催されます。前回の「ねこ・猫・ネコ」展同様、犬の写真を持参すると、2割引きで入場できるサービスがあります。犬を飼っている方は、ご自分の犬の写真をお持ちくださいね。

 

 さて、暖かい季節になってきました。これからの季節、過ごしやすい時期が続きます。気分も軽く、体も軽くなる季節ですね。心と体の調子を整えるには、もってこいの時期です。ぜひ、健康診断を受けに出かけましょう。

 いつも通院している病院や診療所がある方は、主治医に相談されるとよいでしょう。しかし、特にかかりつけの医師がいない方は、この機会に、ご自身の体調を相談できる医療機関を見つけてはいかがでしょうか。

 日本医師会では、かかりつけ医をつくるようにすすめています。では、かかりつけ医とは、どういう医師をいうのでしょう。日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」としています。

 かかりつけ医には、生活習慣病の治療のみならず、毎日の生活で注意する必要があることなど、衣食住すべての相談ができるわけです。また、あなた自身のことだけではなく、両親や子どもの健康についても、相談に乗ってもらえるのがかかりつけ医です。

 健康なときこそ、かかりつけ医を持ちましょう。そして、健康なときから、毎日の生活の仕方を相談してみてはいかがでしょうか。皆さんが元気で健康な毎日を過ごすことが出来ますように、心からお祈りしております。

好きなことで、心も体もリフレッシュ

芥川龍之介の作品「鼻」は、大きな鼻の禅智内供ぜんちないぐが、主人公です。禅智内供の鼻は、長さが15から18センチ・メートルあると書かれています。初めてこの話を読んだ時、私は、「鉄腕アトム」に出てくる、お茶の水博士とイメージが重なってしまい、含み笑いしながら、読んだ記憶があります。

 私は小学生の頃、楽しんでマンガを読んでいました。特に、手塚治虫先生が大好きで、「ブラック・ジャック」の連載を毎週、欠かさず読んでいました。そんな手塚治虫先生に憧れて、私は医師になりました。

 みなさんにも、小さな頃、憧れたものがあったと思います。満天の星を眺めながら、いつかは宇宙を旅してみたいと宇宙飛行士に憧れた人、遠い砂漠に浮かぶピラミッドを目指し、悪路を行く冒険家に憧れた人、深い海の神秘に心を奪われ、海底2万マイルを冒険する潜水艦の船員に憧れた人――。大人になると、小さな頃の憧れを知らないうちに忘れてしまうことがあります。生活に追われ、仕事が忙しく、夜になるとぐったりとしてしまう毎日を送っている人や、病院に通い、薬を飲む時間に追われる日々を送っている人など、心も体もすり切れてしまってはいませんか。

 そんな時は、無理をせず、少しのんびりしてみてはいかがでしょうか。たとえば、しまい込んでいた懐かしい写真を見たり、好きだった歌手の歌を聴いたり、昔行った思い出の場所を訪ねてみたり、心休まる時間を過ごすようにしてみてはいかがでしょうか。

 私も、心と体に栄養を与えるために、2015(平成27)年2月28日から5月10日まで、京都国際マンガミュージアムで開催されている「医師たちのブラック・ジャック展」へ行って来ました。2階の展示場には、等身大のブラック・ジャックとピノコが、私を待っていてくれました。私も、童心に帰って、記念写真を撮らせていただきました。

 久しぶりにマンガの世界を楽しんだおかげで、心も体もリフレッシュしました。薬や医療に頼ることなく、自分の好きなことで、体調管理ができました。ゴールデンウィークは、絶好のチャンスです。ぜひ、みなさんも、病院にかかる必要がある状態になる前に、体を休める工夫をされてはいかがでしょうか。みなさんが、元気で健康な毎日を過ごされることを心からお祈りしています。

痛い・重い・だるい 腰の痛み、内臓疾患の可能性

背中から腰にかけて、痛い、重い、だるい……。そんな症状が現れることもある。原因は内臓の病気かもしれない。お腹の中の仕組みと、症状別に原因と思われるものを紹介しよう。

 「体の後ろ側の『後腹膜(こうふくまく)』という場所の臓器に異常が起こると、背中や腰に痛みなどの症状が出やすい」と芝大門いまづクリニックの今津嘉宏院長。

 お腹の中には、腹膜で囲まれた腹腔というスペースがあり、この中には胃や肝臓、大腸などの臓器が収まっている。いわゆる“お腹”の臓器だ。この腹膜の後ろの場所が、後腹膜。ここには十二指腸や膵臓、腎臓などがある(図1)。「後腹膜はいわばお腹の“外”。だから、ここに異常があると背中や腰に症状が出やすい」(今津院長)

図1 お腹の“外側”の後腹膜にあるのは、十二指腸や膵臓、腎臓など。また、心臓からの血液を全身に送る大動脈も背中側を走っている。これらに異常があると、背中や腰に症状が現れやすい

 なるほど、お腹の“中”と“外”で症状が出やすい場所が異なるというわけ。たとえば、高熱とともに膀胱炎のような症状が現れる腎盂腎炎(じんうじんえん)。腎臓は“外”にあるので、背中から腰にかけて痛みが出る(図2)。

 「子宮の場合は、半分はお腹の中にあるが、もう半分は外にある。このため、子宮内膜症の場合は、下腹部だけでなく、腰の方にまで重い痛みが出てくる」と今津院長。

 また、胸膜の後ろを通る大動脈に異常が生じた場合も、背中に痛みが出やすい。

 整形外科系の病気は、姿勢や動作に伴って痛みなどの症状が現れやすいが、内臓の病気の症状は必ずしも姿勢とは連動しない。図2で思い当たる症状がある人は早めに内科で受診を。

図2 痛みの部位でわかる内臓疾患 (チャート図考案は今津院長によるもの)

【背中右上部に出る痛み】

▼肺炎、肺結核など「響くような痛み」

▼気管支炎など「背中全体に広がる痛み」

 カゼや喘息、喫煙などが原因で、急性気管支炎になることも。咳や痰、胸の不快感のほか、咳をすると背中全体に痛みが広がる。肺炎や肺結核でも、咳き込むと背中にまで響くような痛みが生じることがある。痰のからむ咳や胸痛、発熱、息切れなども伴う。

【背中右下部に出る痛み】

▼十二指腸潰瘍など「差し込むような痛み」

▼肝炎など「体のだるさを伴った痛み」

▼腎盂腎炎、腎結石など「発熱を伴った痛み」

 十二指腸潰瘍は20~40歳の比較的若い人に多い。空腹時にみぞおちや右側の背中に、差し込むような痛みが生じる。肝炎の場合は、右わき腹から背中にかけて、だる重いような痛みが起こりやすい。痛みや発熱を伴う腎盂腎炎や腎結石は、左右それぞれ発症する可能性がある。

【腰まわりに出る痛み】

▼尿路結石など「間欠的な痛み」

▼卵管炎、子宮外妊娠など「高熱を伴った痛み」

▼子宮内膜症など「下腹部全体の重い痛み」

 尿路結石では、七転八倒するような痛みが突然出現。痛みは出たり消えたりを繰り返す。細菌のクラミジア感染などで起こる卵管炎、受精卵が子宮外に着床する子宮外妊娠では、高熱を伴い腰まわりが痛む。子宮内膜症では月経痛が重く、痛みは下腹部から腰にまで及ぶ。

【背中左上部に出る痛み】

▼狭心症、心筋梗塞など「手で握られるような痛み」

▼解離性大動脈瘤、大動脈瘤など「引き裂かれるような痛み」

 心臓の冠動脈が狭くなったり詰まったりして、心臓に血液が十分供給されなくなるのが狭心症や心筋梗塞。胸の痛みが一般的だが、背中にまで痛みが放散することも。大動脈の内膜が裂けて瘤(こぶ)ができる解離性大動脈瘤などでは、引き裂かれるような激痛が突然起こる。

【背中左下部に出る痛み】

▼膵炎、膵臓がんなど「耐え難い痛み」

▼腎盂腎炎、腎結石など「発熱を伴った痛み」

 急性膵炎は、脂肪の多い食事をした後や過度の飲酒後に起こることが多い。胆石が原因で起こることも。耐え難い痛みが、みぞおちから左上腹部、背中側にまで及ぶ。細菌感染で起こる腎盂腎炎、腎臓に結石ができる腎結石では、痛みだけでなく、発熱も伴う。

(ライター 佐田節子)

がんの治療法、めざすは「所変われど、品変わらず」

名古屋には面白いものがたくさんあります。みなさんの地元にも、いろいろな面白い物があるでしょうね。わたしの故郷、名古屋の朝は、喫茶店のモーニングで始まります。このサービスは、コーヒーを頼むと、いろいろなものが付いてきます。そんな名古屋を満喫することも目的の一つに、今週、第115回日本外科学会定期学術集会に参加してきました。早速、なじみの喫茶店に入り、モーニングを注文しました。すると、コーヒーにサンドイッチがセットになって、手頃な値段でおいしい朝ごはんをいただくことができました。

 実は、このサンドイッチもちょっと変わっています。いつもいただく東京のたまごサンドは、ゆで卵をマヨネーズで味付けしたものが一般的です。しかし、名古屋でいただくたまごサンドは、ふんわりと焼いたタマゴをマヨネーズと洋辛子で味付けしたものです。名古屋出身の私にとっては懐かしい味付けで、朝からホッとする時間となりました。

 所変われば品変わる、というように、病気の治療法も、場所が変われば、治療法も変わります。例えば、寒い地方の風邪と暖かい地方の風邪では、使う薬も治し方も変わります。そんな中で、がんの治療は、学会が中心になって治療法を審査し、基準となる治療法をガイドラインにしています。

 このガイドラインには、胃がんの患者さんに行う手術や抗がん剤治療、放射線治療を、どう組み合わせればよいかが、まとめられています。早い時期に見つかった小さな胃がんは胃カメラで治療するか、手術をするかについて、形や大きさで細かく決められています。

 抗がん剤治療も同じように、薬の種類と量を病気の状態によって、使い分けるようになっています。このガイドラインを基に、治療を担当する医師は、患者さんに合わせて治療方針を決めていきます。

 しかし、最もその人に合った治療法を選ぶには、やはり、知識と経験が必要となります。ガイドラインに記載されている方法をそのまま行うと、ひどい副作用が出たり、後遺症を残してしまったりすることがあります。

 地域によって、病院によって、医師によって、どんな治療法も、ちょっとした工夫で安心して安全に受けることができるようになります。ぜひ、皆さんそれぞれに合った医師を見つけてください。どうか、みなさんが、安心して安全に医療を受けることができますように、心からお祈りしています。

体調管理に気を配る春…気分をやわらげるシナモンがおすすめ

土の中から新芽が出始め、花がほころび、虫たちが元気になる季節。春は、気持ちの良い季節ですね。しかし、この季節に体調が優れない方が、多くいらっしゃいます。

 春は、寒い冬から気温が上がり、着る物も薄着になる時です。しかし、夕方に気温が急に下がったり、冷たい風が吹いたりします。1日のうち、最高気温と最低気温の差が一番激しいのが、この季節です。

 寒暖の差で、おなかを壊すことが多くなります。「お腹の風邪」をひいてしまい、腹痛や下痢に悩まされることがあります。こんな時は、胃腸を温めると良いでしょう。温かい白湯さゆを朝、昼、夕、寝る前と、一口、飲むようにしましょう。白湯が胃腸を温め、体の芯から、ゆっくりと胃腸の疲れをとってくれます。

 気温の変化や気圧の変化で体調をくずしやすい春は、冬以上に気を遣う必要があります。以前に手術を受けたことがある方は、傷痕がシクシクと痛んだり、突っ張ったりします。

 急性虫垂炎(一般には、盲腸と言われています)を例にお話ししましょう。最近の急性虫垂炎の手術は、腹腔鏡ふくくうきょうで手術を行いますが、以前は、開腹手術でした。開腹手術を受けた方のお腹には、右下に手術の痕が残ります。皮膚には手術の痕だけですが、お腹の壁にも、手術による傷が残っています。このお腹の壁の部分が、痛みの原因のようです。

 もし、傷痕が痛んだり、突っ張ったりした場合は、傷痕を温めると良くなります。ご自分の手をソッと当てて温めても良いでしょう。

 春になると気分が落ち込んだり、気持ちが不安定になったりすることが多いようです。特に女性は、感情の浮き沈みが激しくなったり、ちょっとしたことで思い悩んだりするようになります。

 漢方医学では、「」の問題が起こっていると考えます。この「気」の問題を治療するときには、桂枝けいしという薬草が使われます。桂枝は、みなさんもご存じのシナモンです。シナモンには気分をやわらげる作用があります。もし、気分が落ち込んだり、不安定だったりする時は、紅茶やコーヒーにシナモンを入れることをお勧めします。

 新学期が始まり、新しい環境で気持ちも体も緊張する春は、体調管理に気を配る必要があります。どうか、みなさんが明るく笑顔で毎日を送ることが出来ることを心からお祈りしています。

新しい出会いの季節に、医学系セミナー3題

4月は、新入学、入社式など、新しい出会いがたくさんある時期です。この春、医学部を卒業して、夢と希望を抱え、研修を始める新人の医師にとっても、4月は新しい環境での厳しい毎日の始まりです。

 今から27年前、私も新人の医師として、慶應義塾大学病院で研修を受けました。新人の医師の朝は、入院している患者さんの血液検査を行うことから始まりました。朝早くから注射器を持って病棟を歩いている新人の医師は、患者さんから「吸血鬼」と呼ばれていました。

 そんな毎日の研修では、机の上で学んだことを自分の頭で考えて、判断することの難しさを学びました。当時はまだ携帯電話やインターネットがありませんでした。わからないことがあると、仕事の合間に図書館で文献を調べる必要がありました。そんな時、先輩の医師や看護師さんから教えてもらう知識と経験は、文献にも載っていない貴重なものでした。

 実際に、先輩の医師が患者さんへ説明している話を聞いたり、看護師さんが患者さんにやっている処置の方法を見たりすることで、多くのことを学びました。まさに、目と耳で学問を吸収していったのです。

 そして、医師になった今、私は、患者さんから多くのことを教えてもらっています。毎日の診療で、おじいさんやおばあさんが口にする言葉から、少しでも長く体を使い続けられる工夫を学びます。小さな子どもからは、素直に感情を表現する大切さを知ります。私にとって、患者さんと話をすることは、本当に、勉強になる時間なのです。

 医学は日進月歩です。常に新しい情報が発信されています。私は、1年を通して、さまざまな学会へ参加して、多くのことを吸収しています。

 特に今年は、4年ごとに開催される日本医学会総会の学術講演が、2015(平成27)年4月11日(土)から、京都で開催されます。同じ日、東京の日本教育会館では、第18回 オンコロジーセミナー「高齢者がん治療とチーム医療―高齢者がん治療の問題をどのようにとらえ実臨床でどう生かすのか―」が、開催されます。私は、お昼の時間にお弁当を食べながら勉強するランチョンの講師を担当させていただき「高齢者がん患者への漢方医学」について、お話しさせていただきます。

 そして、同日、熊本では「フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~」が開催されます。基調講演は、わたしの恩師である国際医療福祉大学学長の北島政樹先生です。私は、会場に設置される展示パネルの監修を担当させていただきました。もし、会場へお見えの方がいましたら、ご覧になってくださいね。

 4月、どうか、みなさんにとって、すばらしい出会いと感動の毎日になりますように、心からお祈りしています。

気分も新たに、がん検診を受けましょう

秋田から、久しぶりに知人のHさんが訪ねてきてくれました。Hさんは、以前、同じ病院で仕事をし、いろいろと教えていただいた医療界の先輩です。東京生まれのHさんは、今、秋田で地域医療の仕事をされていて、「秋田の澄み切った青い空を見たら、一度で大好きになってしまった」そうです。

 秋田には、2001(平成13)年、秋田で開催された日本消化器外科学会総会に、「上部胃がんに対するPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;内視鏡的胃瘻いろう造設術)からの補助を用いた内視鏡的胃粘膜切除術」というビデオ発表をさせていただいた時に、訪れたことがあります。その時いただいた日本三大地鶏のひとつ、比内鶏のおいしさは今でも忘れません。

 みなさんは、検診を毎年受けていますか。ぜひ、定期的に体のチェックをするために、検診を受けましょう。「健康が、自慢だ」と言う人でも、検診を受けることで、さらに自信を持てると思います。

 みなさんもご存じのように、日本人の2人に1人が、がんにかかる時代です。わたしたちは、がんを避けることはできません。2013年の都道府県別年齢調整死亡率で、秋田県は男性の胃がん死亡率が日本一でした。原因はいろいろと考えられます。一番大きな問題は、がん検診を受ける方が少ないことだ、と言われています。がんは、予防することで治すことができる病気です。がん検診を受けることで、早期発見、早期治療ができるようになります。

 しかし、検診を受けておけば良い、ということではありません。小学生の時に受けたテストを思い出してください。受けたテストの結果を受け取る前は、どんな点数か、ドキドキして不安だったと思います。100点満点が取れたときは、走って家に帰って、両親に早く報告した経験があると思います。しかし、残念ながら、何問か間違ってしまい、自分の不勉強さに悔しい思いをしたこともあるでしょう。そして、次のテストは、なんとか良い点数がとれるように気を引き締めたと思います。

 検診も、小学校のテストと同じです。検査結果をみて、自分の欠点を見つけ、1年をかけて体調管理することが、一番大切です。

 春がやってきました。気分も新たに、日々の生活を楽しんでください。上を向いて、きれいに咲いた花を楽しみながら、みなさんが、元気で健康な毎日を過ごされることを心からお祈り申し上げます。

実は相性のよい外科学と漢方医学

今から25年前、わたしは、茨城県霞ヶ浦の近くにある国立病院で1年間、研修させていただきました。当時、私は、まだ医師になって3年目でしたので、毎日が緊張の連続でした。そんな縁もあってか、先日、第7回茨城県消化器外科漢方研究会へ呼んでいただき、「がんと漢方」と題して、お話をさせていただく機会を頂戴しました。

 どうして、外科医が漢方を研究しているのか、不思議に思われている方も多いと思います。実は、外科学と漢方医学は大変に相性のよい学問なのです。外科学と漢方医学を実際の医療に活用した医師として有名なのは、皆さんもご存じの江戸末期に活躍した華岡はなおか清洲せいしゅうです。世界で初めて全身麻酔を行ったばかりでなく、十味敗毒湯じゅうみはいどくとう紫雲膏しうんこうなど現在でも彼が考えた薬が広く使われています。

 では、どうして外科学と漢方医学は結びつきが強いのでしょうか。それは、どれだけ医学が進歩しても、外科医は機械に頼ることなく、実際に自分の手で病気に触れ、自分の手で病気を治すことを生業なりわいにしているからです。

 簡単な例を挙げてみましょう。急性虫垂炎という病気があります。一般には、盲腸と呼ばれている病気で、緊急手術になるこわい病気の一つです。昔から、急性虫垂炎は難病でした。急性虫垂炎は、1901(明治34)年に開催された第3回日本外科学会でも取り上げられましたが、現在でも急性虫垂炎の原因はわかっていません。

 この病気の診断は、血液検査、レントゲン、超音波検査などを組み合わせて行います。最近では、造影剤を使ったCT検査で診断するようになりました。しかし、手術をするかどうか、最後に決定するのは外科医の判断です。

 外科医は、いろいろな検査結果を参考にしながら、患者さんのおなかを丁寧に診察し、お腹を開けた方がよいか、手術をしないで様子を見た方がよいかを判断します。結局、最後は人の手の感覚が一番重要になるわけです。

 漢方医学は、血液検査もレントゲンもない時代に発展した学問です。五感を最大限に活用して診断を行います。治療方針を人の手によって決める急性虫垂炎の治療法は、漢方医学の治療法そのものです。どんなに科学が進歩しても、人の感覚を大切にする外科医が漢方医学をうまく取り入れる理由がここにあります。

 手術という治療法がなかった江戸時代では、急性虫垂炎を漢方薬で治療していました。これを実践した昭和時代の医師が、龍野一雄先生です。1940年にペニシリンの精製方法が開発される前の時代に活躍した龍野一雄先生は、急性虫垂炎を手術することなく漢方薬で治療していました。

 どんなに医学が進歩しても、外科学と漢方医学を学んだ多くの医師が、それぞれの学問の長所をうまく組み合わせて、病気を治していくことを、私は心から願っています。

交通手段の高速化と出会いから考える漢方の大切

東京電力福島第一原発事故で建設工事が中断していた福島県内の常磐自動車道のうち、常磐富岡―浪江インターチェンジ間が3月1日、開通しました。これで常磐自動車道は、埼玉県三郷市から宮城県亘理町わたりちょうまでの約300キロを結ぶ太平洋沿岸のルートが全線開通することになりました。都内から東北がぐっと近くなることから、再び多くの人たちが東北へ足を運ぶ機会が増えると思います。

 そして、3月11日を迎えました。東日本大震災から4年が過ぎました。震災の影響はまだまだ大きく、いろいろな問題を残しています。これまでも、これからも、多くの支援が求められています。

 そんな中、2016年春の北海道新幹線開業の準備のために、寝台特急「北斗星」(札幌―上野)は3月13日に、定期運行を終えます。1988年の青函トンネルの開業に合わせてデビューした「北斗星」の廃止によって、鉄道旅行の象徴的な存在だった青い客車の特急「ブルートレイン」の姿が消え、一つの時代が幕を下ろします。

 さらに、3月14日、北陸新幹線が開業します。東京―金沢間が、最速2時間28分で結ばれるようになります。日本海が身近になります。昨年の夏に金沢を訪れたときは飛行機でしたが、今度、北陸新幹線で行きたいと思っています。

 関東から北海道、東北、北陸への陸路が整備されて、どんどん高速化していきます。高速道路と鉄道の発展とともに人の流れも変わっていきます。違った土地での新しい人との出会いが、新しい考え方を生んでいきます。これは、漢方医学と栄養学との出会いや、漢方医学と緩和ケアとの出会いに似ています。

 異なった考え方がうまく混ざり合うことで、新しい医学が生まれていきます。わたしは、五感を大切にする漢方医学と、検査データを重視する西洋医学を融合することが、現代医学だと考えています。

 たとえば、100人の患者さんを診察したとします。全員、血液検査を受けていただき、健康状態を評価します。結果を聞きに行った皆さんは、「検査結果は、正常だから問題ありません」と医師に告げられます。そんなとき、みなさんはどう考えますか?

 検査結果が正常だったとしても、実際には、体調が優れない方や気分が悪い方がお見えになります。わたしは、検査では見つけることができない不調を拾い上げていくことが、大切だと考えます。そのためには、時間はかかっても、一人一人の話を正面から聞くことが求められます。検査結果だけに左右されない姿勢を学ぶために漢方医学があります。漢方医学は、決して、難解な学問でもなく、難しい薬理学でもありません。漢方医学は、医師が一人の人間として、患者さんと向き合う大切さを教えてくれます。

 あなたの体調管理をまかせている医師は、ちゃんとあなたの話を聞いてくれているでしょうか。検査データだけを見て、顔を見ない医師にかかってはいませんか。病気になったとき、真剣にあなたの立場になって考えてくれるでしょうか。

 つらい震災を経験し、わたしたちはまた、一つ学びました。日本がいかに発展しようとも、原点は人と人のつながりであり、それを積み上げてきた歴史だということを。この震災を自分たちの文化や伝統の中に受け入れ、後世に残すことが大切だと思います。わたしも、大学で学んだ西洋医学に漢方医学を受け入れ、これからの医療に受け継がれていくものを残すことが大切だと考えています。

漢方医学を現代の栄養学に活用する

わたしは、これまでに200回以上、大学や病院など、医師、薬剤師、看護師の皆様に、漢方医学のお話をしました。今回は、東京都三鷹市にある杏林大学医学部付属病院で、栄養学と漢方医学についてお話をする機会をいただきました。

 実は、私は栄養学を学生時代に学ぶ機会がなかったため、医師として働きながら、勉強しました。患者さんの体調を考えると、食事の管理は重要だからです。特に、手術を受けた後の栄養管理は、術後の経過を左右します。がん化学療法を受けている患者さんの栄養管理も、副作用を軽減するために大切なポイントになります。

 私は、日本静脈経腸栄養学会が行っている医師対象の研修会の講師をさせていただく際、実際の医療現場で栄養学が活用されるように、少しでもわかりやすく教えてきました。そこで今回は、杏林大学医学部付属病院のNST(栄養サポートチーム、Nutrition Support Teamの略)のみなさんに、私が学んできた栄養学と漢方医学の関わりについて、お話しさせていただきました。

 栄養状態を見るためには、二つの方法があります。ひとつは、SGA(Subjective Global Assessmentの略)、主観的包括的評価です。もうひとつは、ODA(Objective Data Assessmentの略)、客観的栄養評価です。

 SGAは、患者さんを実際に見て、触れて、感じて、栄養の状態を把握する方法です。「なんだか、顔色が悪い」「声に張りがない」などといった情報から、患者さんの全身状態を把握します。

 ODAは、患者さんの検査結果をもとに、数値を比較して栄養の状態を把握する方法です。入院患者1000人の評価を行う場合など、患者数が多くなったときに役立ちます。

 SGAとODAと、漢方医学がどう関わるか、疑問を持たれる方も多いと思いますが、「SGA=漢方医学の診断学」なのです。

 聴診器もなく、血液検査やレントゲンがない時代の医学である漢方医学の診断学は、まさに、患者さんを実際に見て、触れて、感じることで診断します。

 以前にも、このブログ(「自分の健康を知る方法(1)朝、舌を見る」)で書かせていただきましたが、舌の状態から、胃の状態を知る診察方法は、NSTに活用することが簡単にできます。また、検査データには表れない体調の変化を漢方医学では「」の異常として考えます(参照:「自分の健康を知る方法(9)「元気」を作る気力、体力、消化力」)。

 「何となく、元気がない」というのは、「気」が不足しているためです。元気がなく、気力がない患者さんには、体力も落ち、食欲もわかない(消化力が落ちている)状態と診断し、漢方医学では、「気」を増やす治療を行います。

 日常生活にも、このNSTは応用することができます。仕事が忙しく体が疲れているときは、いつもと同じ定食を選ぶのではなく、栄養価の高い食事にします。精神的にめいっているときは、胃腸に優しい消化のよい食事を選ぶといいでしょう。肉体も精神も、回復させるためには、栄養が必要なわけです。

 まだ栄養剤も点滴もなかった時代の漢方医学を現代の栄養学に活用することで、よりよい栄養管理をすることができるようになるわけです。