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ボジョレー・ヌーヴォーの味わいと漢方薬

 しっかりとした土壌から大地の恵みを吸い上げ、太陽の恩恵を一身に受け、昼と夜の温度差により濃厚な味わいを強くする葡萄の新鮮な風味を瓶にしっかりと詰め込んだボジョレー・ヌーヴォーを愛する日本人も多いと思います。

 「もう、ボジョレー飲んだ?」「今年の出来は、どうなの?」と季節の挨拶代わりに交わされるフランス東南部ボジョレー地方で作られるワイン。11月になると解禁され、日本ではお祭り騒ぎになりますね。自然の恵みは、すべての生きものへ受け継がれていきます。その年の天候に左右されるため、毎年、味わいや香りの違いを楽しみながら、愛する人、家族、友人と一緒に楽しい時間を過ごすことは、たとえ病気になっても大切にしたいひとときとなるはずです。

 漢方薬の原材料である草花も同じように、自然の力で育ち、実を結び、様々な成分を含んだ貴重な生薬(漢方薬の原材料)となります。しかし、「去年の漢方薬は、よく効いたなぁ」「今年は不作の年だったから、今年の漢方薬では治らないかもしれない」といった、年による漢方薬の品質の違いがあったとしたら、すこし怖いですね。たぶん、昔は、産地や管理方法などの差によって、漢方薬の品質管理はかなり異なっていたと思います。

 それでは、現在はどうでしょうか?

 日本で作られている医療用漢方薬は、日本の法律にもとづいて作られています(漢方薬と言っても医療用漢方薬と一般用漢方薬がありますので充分にご注意ください。ここでは医師から処方される医療用漢方薬について説明しています)。このため、「今年の漢方薬は、去年の漢方薬よりも、同じ量で何倍にも効果があります」「北海道で使っている漢方薬と沖縄で使っているものは、同じ名前でも、内容は違います」といったことは、医療用漢方薬の場合は、ありません。

 そこはボジョレーの出来が毎年話題になるのと違って、「今年の漢方薬は特に芳醇な大地の味わいがして、効き目も格別だ」なんてことはないのです。安心してご利用ください。

西洋医学で治せないなら「不治の病」か

 現代医学は日々、進歩しています。血液一滴でいろいろなことがわかったり、PET検査によってこれまで見つからなかった早期がんが発見できる時代です。

 しかし、大学病院やがん専門病院へ受診しても、「検査の結果、原因はわかりませんでした」「もう、治療法はありません」と言われる場合があります。確かに現代西洋医学で、診断できない病(やまい)や治らない病気は沢山あります。検査方法が確立されていないばかりか、治療法もない病気も少なくありません。例えば、急性虫垂炎など、未だに原因はわかっていません。 

 いまよりもわからないことが沢山あった時代に、とんでもないことをやってのけた人物がいます。それは、前回も紹介した華岡青洲(はなおかせいしゅう)です。

 華岡青洲は、自らの家族を実験台にして麻酔薬「通仙散」の配合を確立し、1804年に世界で初めて全身麻酔下による乳がん摘出の外科手術を成功させた外科医です。当時の最先端医療であるオランダ外科学と日本の伝統医学である漢方医学を融合させたといえます。

 約200年後、現代のがん医療の臨床現場では、外科医が積極的に漢方医学を活用しています。外科医は、患者を救うために、自らのメスで、患者さんを傷つけなければならない宿命を背負っています。この宿命が、少しでも患者のためになるものは診療に活用しようとする原動力になっています。

 華岡青洲もきっと同じ宿命を感じ、麻酔薬の開発に取り組んだのでしょう。西洋医学だけでは解決できなかった病気から患者さんを救う方法を見つけ出そうと、現代の「華岡青洲」たちも努力を重ねています。

なぜ外科医が漢方を?

 2000年4月、第100回日本外科学会総会では、会場である東京国際フォーラムと慶應義塾大学病院、ニューヨークのマウントサイナイ医療センター、川崎市立川崎病院の4か所を、インターネット通信を活用した4元中継で結び、遠隔操作での外科手術を行うなどしました。まさに、最先端の通信工学と外科医学を融合させた新しい医療の扉が開かれた学会でした。

 あれから12年が過ぎ、iPS細胞を発見した山中伸弥教授がノーベル医学賞を受賞し、これまで難治と考えられた病気にも治療の光が当たる可能性が見えてきました。iPS細胞は遺伝子工学と医学の融合です。医学が進歩するためには、それぞれの時代に、他分野のすぐれた点を取り入れ、融合していくことが重要といえそうです。

 わたしは、外科医として1988年、慶應義塾大学医学部外科学教室にお世話になり外科学の手ほどきを受けました。そして1997年からは産婦人科医であり漢方医でもある村田高明先生(日本臨床漢方医会理事長)に師事し漢方医学の基礎を学びました。村田先生は月経前症候群、更年期障害、不妊症など産婦人科領域に漢方医学を積極的に取り入れた方です。

 こうして私は約25年間、医師として医療に携わり、現代における外科学と漢方医学の融合を目指してきました。

 「外科医がどうして漢方を?」とよく聞かれます。私は外科医として、メスだけでは治すことができない病気、抗がん剤や放射線を組み合わせても難渋する病気と向き合ってきました。やがて、最先端医療である西洋医学では治すことができない病気も、全く正反対にある伝統医学「漢方」を学ぶことで解決の糸口を見いだすことができるのではないのか?と考えるようになりました。

 その当時、わたしのまわりにいる外科医は、漢方医学のことを馬鹿にすることはあっても、学ぼうとする人は皆無でした。奇人変人扱いをされる日々が続きましたが、それでもコツコツと昼間はメスを握り、夜は漢方医学を学ぶ日々を送ってきました。

 そして、先ほど触れた第100回外科学会の記念郵便切手を見たとき、わたしの気持ちが間違っていなかったことを確信しました。そこには、華岡青洲(1760~1835)と、彼が開発した麻酔薬「通仙散」の主剤であるチョウセンアサガオが意匠として描かれていたからです。世界で初めて全身麻酔に成功した外科医・華岡青洲が目指した医療は、まさに和洋折衷、西洋医学と漢方医学の融合に他ならなかったからです。

 勇気をもらったわたしは、その後さらに外科学と漢方医学の融合を目指すことになりました。これからはじまるブログは、そんな外科医の漢方四方山話です。