コラム



今年の夏、暑くて睡眠不足になった方、いらっしゃいますか。涼しくなっても、なかなか睡眠の状態が安定しない、途中で目が覚めてしまう、ということがあります。あなたは、眠れない夜をどう過ごしていらっしゃいますか。
年を取ると、睡眠が浅くなり、睡眠時間も短くなった、とお嘆きの方が多いと思います。睡眠導入剤などを処方していただいている場合もあります。わたしのクリニックへも、「眠れない」ことを悩まれて、受診される方がいらっしゃいます。
しかし、眠れない理由は、様々なようです。例えば、「心配事があり、眠れない」「脚が冷えて、トイレが近いために眠れない」「寝つくのが遅く、夜中になってしまう」というものです。
いろいろな理由がありますから、すべて、同じ睡眠導入剤で治療するのは、間違っているように感じますね。みなさんは、どうお考えになるでしょう。わたしは、ひとりひとりに合わせた治療法があると、考えています。
試験前や重要な会議の前、なかなか寝つけないのは、「心配事があり、眠れない」と同じような原因と考えます。頭を休めることができず、睡眠がうまくとれないためです。頭を休める方法を考える必要があります。例えば、試験勉強や会議の準備は、ある程度で区切りをつけてもらい、決められた時間に睡眠をとってもらうようにします。
心配事がある時は、解決策がなかなか見つからず、出口の見えないトンネルのような状態です。「睡眠をとることが、ひとつの薬になる」ことを理解してもらいます。
脚が冷えて眠れない、トイレが近くて眠れない場合、睡眠導入剤以外にも、いろいろな薬が処方されている場合があります。脚が冷える場合は、ビタミンEや血流改善剤などが処方されます。
あるいは、薬に頼らないで、寝る前に足浴をすると良いと思います。昔、病院で勤務をしていたとき、眠れない患者さんの両足を、お湯でゆっくりと温めている光景を目にしました。トイレが近いときも、同じ方法で、改善することができます。
寝るのが、午前2時や3時だという人がいらっしゃいます。中には、朝方、床について起きるのはお昼近くだ、という人もいらっしゃいます。これは、眠れないのではなく、睡眠時間がずれてしまっています。いくら睡眠導入剤で治療しても、改善することはありません。
この場合は、睡眠日記をつけてもらいます。何時に寝て、何時に起きているか、自分自身でも自覚していただくために、しっかりと記録をつけてもらいます。そうすることで、睡眠時間は6~8時間としっかりとれているが、睡眠の時間帯がずれていることがわかります。
睡眠不足は、昼間、身体がだるくなったり、眠気が襲ったりします。しっかりとした睡眠は、健康のために必要です。睡眠をうまく調節して、元気で、健康な毎日をお過ごしくださいね。
夏の甲子園も、いよいよ佳境です。今年は、どこが優勝するのでしょう。学生たちの夏休みも、残すところあとわずかですね。真っ黒に日焼けした子供たちも、そろそろ、夏休みの宿題のでき具合が、気になるころです。皆さんの夏は、いかがですか。
まだまだ暑い日が続く中、わたしのクリニックには、「夏風邪」の患者さんが増えています。「夏風邪」には、「のどの風邪」と「お
のどの風邪の原因は、冷房や扇風機です。クーラーの利いた部屋で寝てしまった、扇風機に当たりすぎた、など暑さをしのぐために使っている冷房や扇風機で、体調を崩してしまったケースが多いようです。
冬の風邪は、高熱と咽頭痛で始まり、関節痛や全身
こんな症状の場合、西洋医学では、総合感冒薬と咳止めをお出しするところです。漢方医学では、咳を軽くすることも大切ですが、体力を回復させることも必要と考えます。「竹じょ温胆湯(ちくじょうんたんとう)」を処方します。
お腹の風邪の原因は、冷たいものを食べたり、からだを冷やしたりしたことです。冷房の利いた部屋に入るとお腹が痛くなる、かき氷を食べると下痢をする、などの症状でお見えになります。消化不良が続くために、徐々に体力が低下してしまい、体全体がだるく、仕事を休んでしまう方もいらっしゃいます。
こんな症状の場合、西洋医学では、下痢止めと整腸剤をお出しするところですが、漢方医学では、胃腸の状態を整えることも必要と考え、「啓脾湯(けいひとう)」を処方します。
夏もあと僅かです。夏の体調管理、どうか怠りなくお過ごしください。
高校球児の夏がやってきました。台風の影響で、今年は、夏の甲子園の開会式が、2日も延期になる異例の全国高校野球大会となりました。ひとつの白球を真剣に追う彼らの姿は、多くの感動を与えてくれます。みなさんにとっての夏は、いかがでしょうか。学生にとっては、楽しい夏休み、営業担当のサラリーマンにとっては、クールビズでも暑い夏だと思います。
わたしは、先日、休みを利用して薬学部の学生と一緒に水戸市にあるハーブ園を訪れました。このハーブ園では、漢方薬の材料に使う薬草がたくさん育てられているからです。学生たちは、漢方薬の薬理作用や効果などを理解する場合、教科書や参考資料といった机の上で学ぶことが多いのです。しかし、この実習に参加した学生たちは、自分たちで、薬草を摘み、エキスを搾り出し、ジュースにして味わうことで、薬草についての理解を自分の五感を使って確かめていきます。実際に、自分たちの目で見て、手で触れ、香りを嗅ぎ、舌で味わうことで、ひとつひとつの薬草をより深く理解したことでしょう。
ハーブ園では、2種類のペパーミントが育てられていました。このハーブ園の園長先生お手製の赤じそジュースにも、このペパーミントが使われていました。その香りは、いつもわたしが口にしているペパーミントの何倍も強く、味も濃いものでした。同行した薬学部の先生と、「ペパーミントを入れたお湯は、温かいけれど、飲んだ後に口の中へ爽快感が広がり、ひんやりと感じるのは、どうしてだろう」と、ペパーミントの効用が、話題になりました。この香りのもとであるペパーミントの成分は、打撲や筋肉痛に使う冷湿布に使われています。
冷湿布は、冷蔵庫で冷やさなくても、ペパーミントに含まれる成分の作用で、口の中の粘膜や皮膚に直接作用して「冷たく」感じます。実際には、常温のままの冷湿布でも、身体は冷たく感じるのですから、ペパーミントの作用は、熱をとり、患部を冷やす効果があります。自然の力を治療にうまく利用しているわけです。
ペパーミントをはじめ、ハーブ園にあった多くの植物は、漢方薬の材料に使われています。知識と経験で、自然から人の健康を守る漢方薬が作られています。科学の進歩で開発された新薬が果たす役割と、自然によって育まれた漢方薬の役割は、おのずと違っていると思います。
日本で行われている医療の利点の一つに、一人の医師が、新薬と漢方薬を一緒に使う点があげられます。海外では、西洋医学と漢方医学のような伝統医学は、医師免許が異なり、新薬は西洋医学の免許を持った医師、伝統薬は伝統医学の免許を持った医師が、それぞれ別々に処方します。日本だけが、同時に両方の医学の治療を同じ医師から受けることが出来ます。
科学の力でうまく治療ができないところを自然の力を活用し、漢方医学で補っていく日本の医療は、みなさんの元気で健康な生活を支えていきます。
ところで、みなさんも、この自然の力を一度、実際に体験してみませんか。9月14、15日に「日本社会薬学会33年会」が、東京都港区にある慶応義塾大学薬学部芝共立キャンパスで開催されます。
http://shayaku.umin.jp/33nenkai/index.html
また、前日の13日の土曜日の午後、市民講座では、「薬のホント!食のホント!」をテーマに、薬膳クッキーやハーブティーを実際に味わっていただく予定です。どうやって自然の力を生活に取り入れていけばいいか、具体的にお話しさせていただく予定です。ぜひ、ご参加くださいね。
その後、ハーブ園の園長先生から、宅配便でペパーミントの苗が送られてきました。わたしも、東京でペパーミントを育てはじめます。園長先生にいただいた植物たちが、東京の地で無事に育ってくれるように、心から願っています。園長先生、ハーブ園の関係者の皆さん、本当にありがとうございました。
ハンフリー・ボガートさん、井上靖さん、淡路恵子さんなど、食道がんで亡くなった有名人は少なくありません。最近では、桑田佳祐さんのように、治療によって元気に活躍している有名人もいらっしゃいます。林家木久扇さんは喉頭がんの治療に取り組んでいます。
前回に続き、喉頭がんと食道がんの治療について取り上げます。今回は、どうやって漢方医学を生かしていくのか、お話しさせていただきます。
がんの3大治療法といわれている外科治療、薬物治療、放射線治療には、副作用、合併症という負担もあります。しかし、この副作用や合併症を少しでも減らして、治療を受ける人が苦しまないように手当てをすることが、わたしは大切だと考えています。
現在は、3大治療法という攻めの治療に対して、守りの治療として緩和ケアが行われています。
緩和ケアというと、体や精神的な苦痛を取り除くこと、と思っている方もいらっしゃるでしょう。たしかに、ペインコントロールやメンタルケアは、緩和ケアの重要なポイントです。しかし、ペインコントロールとメンタルケアだけが、緩和ケアではありません。たとえば、食欲の低下や便通障害(下痢と便秘)など、日常生活での様々な問題をケアすることが、緩和ケアには含まれます。
そして、緩和ケアといっしょにおすすめするのが、漢方治療です。
日本の伝統医学である漢方治療は、日本人に合った守りの治療として、がん治療に活用されています。
夏にがん治療を受ける人には、夏ばての漢方治療を行い、冬にがん治療を受ける人には、漢方医学による風邪対策を行います。負担がかかるがん治療をうまく乗り切るために、きめの細かい対応を漢方医学で行うことが出来ます。
外科治療を受ける患者さんには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)といった参耆剤(じんぎざい)を中心に治療を行います。体力を整え、胃腸を丈夫にする参耆剤は、栄養状態を良い状態に保ち、体力の回復を早めてくれます。
薬物治療の場合は、抗がん剤に合わせた漢方薬の選択が必要になります。シスプラチンによる食欲低下には六君子湯(りっくんしとう)、タキサン系薬剤による
放射線治療の場合は、照射する場所によって漢方薬を使い分けます。喉頭がんや
副作用を軽減することで、いろいろな良い点があります。1番目は、治療を楽に受けられるようになることです。2番目は、予定している治療スケジュールを最後まで行うことが出来るようになること。そして、3番目は、治療がスムーズに進むため、治療効果が十分に発揮されることです。
がん治療を受けている人の中には、わらにもすがる思いで高価なサプリメントに手を出したり、大量に健康食品を購入したりしてしまう人もいます。どうか、その前に、漢方医に相談してください。医学的にエビデンスのある科学的な漢方治療が、きっと期待に応えてくれるでしょう。西洋医学と漢方医学の融合によって、すべての人が、喉頭がんや食道がんに負けない治療を受けていただけることを心から願っています。
わたしの専門は、外科ですが、その中でも食道外科を中心に20年以上、勉強させていただきました。そこで、今回は簡単に、喉頭がんと食道がんについて、説明させていただきます。
喉頭と食道は、食べ物が通過する場所です。喉頭がんは、「のどのがん」とも呼ばれ、口の奥からのどにかけてできるがんです。
喉頭の次に食べ物が通過するのが、食道です。食道がんは、のどから胃までの間にある食道にできるがんです。
喉頭がんも食道がんも、食べ物や飲み物の影響を強く受ける病気です。とくにお酒との関係が指摘されています。お酒を飲んで顔が赤くなる人は、がんになる危険信号だと考えられています。
また、たばことの関係も、古くから指摘されています。たばこによって発生すると考えられているがんは、舌がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、肺がん、
早期がんの場合は、症状がありません。病気が進むにつれて、「熱いものがしみる」「飲み込みがわるくなる」「違和感がある」「食べ物がつかえる」などの症状が現れます。このような症状は、がんができる場所によってさまざまです。心配な方は、かならず専門医に相談されるといいでしょう。
検査は、耳鼻咽喉科で行っている喉頭ファイバーや、消化器科で行っている上部消化管内視鏡検査が良いと思います。特に、最近では、偏光内視鏡という特殊な装置で、簡単に見つけることができるようになりました。
わたしも、毎日の診療に、この偏光内視鏡を取り入れて検査をさせていただいています。実際の写真をお見せします。上が普通の光で見たのどです。下が偏光内視鏡で見たのどです。みなさんにも、写真の色の違いばかりでなく、血管の走行の様子など、違いが分かると思います。
これまで、細胞を採取して、顕微鏡で見ないと分からなかったがん細胞を、光を工夫することで見分けることができるようになりました。この偏光内視鏡は、日本が世界に誇る最先端の医療技術のひとつです。
治療は、大きく分けて3つあります。
一つ目は、手術です。喉頭がんの治療法には、耳鼻咽喉科医と外科医が共同で開発した新しい治療法があります。偏光内視鏡を使って病気を正確に見極め、さらに色素を使って病気の部位を確定します。そうすることで、大きく切り取るのではなく、できる限り患者さんに負担をかけないように小さく病気を切除する方法です。食道がんの治療法も、大きな進歩があります。広い範囲にひろがっている食道がんを内視鏡を使って、丁寧に剥がしながら切り取っていく治療法が開発されています。
二つ目は、薬物療法です。以前は、大きな副作用を伴う方法でしたが、最近では少ない量の抗がん剤を二つ、三つと組み合わせて行う方法が行われるようになりました。
三つ目は、放射線療法です。とくに、放射線療法と抗がん剤を組み合わせて、同時に行う化学放射線療法が主体になってきました。喉頭がんと食道がんは、この方法が進歩したおかげで、「治る病気」になってきました。
以上のように、新しい技術で、早期発見が可能となり、治療法も飛躍的に向上し、喉頭がんも食道がんも、助かる病気に一歩、近づいたと感じています。
しかし、治療に伴う副作用、合併症は、改善されたとは言え、いまだに大きな問題です。西洋医学では、解決することができない問題を何とか漢方医学で対応できないか、それが20年以上にわたって、わたしの一番の関心です。次回は、喉頭がんと食道がんの治療に、漢方医学を応用する方法をお教えします。
わたしは、先週の日曜日、このブログでお伝えした全国高等学校小倉百人一首かるた選手権大会へ、観戦に行ってきました。大津市で開催された大会初日、5人対5人の団体戦の準決勝は、昨年の覇者である東京代表・暁星と、栃木代表・宇都宮の一戦となりました。この試合、最後は、5人のうち3人が「運命戦」となる、接戦となりました(「運命戦」とは、自分と対戦相手の持ち札が、それぞれ1枚ずつになる戦いをいいます)。
この激戦を制した暁星が、7年連続日本一の座を獲得する、感動的な幕切れとなりました。この大会に参加した全国249校の高校生の皆さん、学校関係者の皆さん、本当にお疲れ様でした。どうか、高校生の皆さん、百人一首をはじめとした日本の伝統文化をこれからも大切に守り続けてくださいね。
それにしても、梅雨が明け、暑い日が続きますが、みなさんは熱中症対策、大丈夫でしょうか。
暑くなると汗が滝のように流れ、外の暑さと電車の涼しさの温度差で風邪を引いてしまう人。水分不足から体調を崩す人。食欲がなくなり、体力が低下する人。症状は様々です。
梅雨時から初夏にかけて、環境の変化が人の健康に大きな影響を与えます。この時期、熱中症にならないように、注意するポイントが3つあります。
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1.太陽光線に気をつけましょう。 直射日光に当たるときは、帽子をかぶったり、日よけ傘を差したりするなどの予防策が必要です。とくに露出した肌は、太陽光線で焼けてしまいます。日焼けは、簡単に言うとやけどの一種です。最初は、皮膚が赤くなるだけですが、ひどくなると水膨れになります。うすでの服では、肌を日光から防ぐことができませんので、注意してください。 こんな時、漢方医学では、「 |
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2.水分不足に気をつけましょう。 部屋の中にいても、平均気温が上がると、知らないうちに脱水になっています。人の身体は70%が水分で出来ていますので、脱水は、命の問題にもつながります。日頃から、手の届くところに、水分をおいておくように工夫されると良いでしょう。 漢方医学では、「 |
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3.夏ばてに気をつけましょう。 暑い日が続くと、だんだんと食欲がなくなり、食事を取らずに水分だけで過ごしてしまう場合があります。夏ばての始まりです。食欲の低下から体力の低下へと進んでいきます。消化管症状が、全身へ影響を与える典型的な状態が、夏ばてです。 漢方医学では、「気血水」の考え方から、「気」の異常と考え、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を使って治療を行います。 |
熱中症の季節、この3つのポイントを自分でチェックしながら、暑い夏を元気で健康に乗り切ってくださいね。あなたの健康に、漢方医学がやさしく手助けをしてくれます。
みなさんも、よくご存じの小倉百人一首。巻頭歌の「秋の田のかりほの
漫画「ちはやふる」で、競技としてのかるたを初めて知った人もいらっしゃると思います。私が初めて競技かるたを観戦したとき、厳粛な雰囲気と緊張感が漂う中で、上の句が詠まれた瞬間に繰り出される取り手のスピードの速さと畳の音に驚きました。会場の中を柔道の受け身と同じく、パーンと畳をたたく大きな音が響き渡ります。たった2畳で繰り広げられる真剣勝負は、決して文化系ではなく、体育会系だと思います。
日本の伝統文化である百人一首をさらに広めた競技かるたですが、実際に競技する人口は多くはありません。茶道や柔道、マンガ、アニメに比べて、競技かるたが日本の文化として海外に紹介されることが、どれほどあるでしょうか。このままでは衰退していく危険もあるかもしれません。競技かるたを、若い世代に受け継いでいってほしいと思います。日本の心、日本の伝統を大切にしていってほしいと願います。
実は、日本の伝統医学である漢方医学も危険な状態にあります。というのも、5月30日に出された財務相の諮問機関「財政制度等審議会」の報告書には、「市販類似薬品の更なる保険適用除外」の対象として「湿布、漢方薬など」があげられています。つまり、国の財政を立て直すため、漢方薬を保険適用から外すことが提案されたのです。
もし、保険適用薬から漢方薬が除外された場合は、漢方薬の治療を希望する患者さんには、費用を全額自己負担していただくことになります。病気で困っている患者さんに大きな金銭的負担をおかけすることになります。
がん治療では、副作用を軽減するため、抗がん剤に漢方薬が併用されています。西洋医学では対応できない中で、漢方薬が大きな役割を担っています。漢方薬が多くの患者さんの苦痛を救っています。しかし、保険適用薬から外されてしまった場合、がん患者さんは、漢方薬なしで副作用と闘うことにもなりかねません。
最先端の医療技術は注目され、国もマスコミも、大きく取り上げます。しかし、安価でなじみのある漢方医学は忘れられがちです。知らない間に、漢方医学が医療現場から消えてしまっていることもあるかもしれませんね。
漢方薬を保険適用から除外する考えが今後、議論されていくのか、注視していきたいと思います。
世界へ向けて発信される様々な日本の伝統文化。中国とも韓国とも違う日本独特の文化は、これまで世界中から強い関心を集めてきました。しかし、小学校教育に英語が積極的に取り入れられているにもかかわらず、かるた大会を理解できない日本人が増えてよいものでしょうか。世界に目を向けることも大切ですが、日本の中にも目を向け、日本の伝統を大切にして、育てるようにしてもらいたいものです。
日本独特の文化である漢方医学も同様です。室町時代から日本の風土で育まれた伝統医学を大切に受けついでいくことの重要性をもっと理解する必要があるのではないでしょうか。
ぜひ、みなさんも一緒に考えてください。「かるた」と「漢方医学」、どちらも日本人にとって大切なものではありませんか。
7月の京都は、毎年うだるような暑さの中、1か月続く祇園祭で賑わいます。みなさんは、ご覧になったことはありますか。今年は、
ご存じのように、祇園祭は、およそ1100年前の清和天皇のとき、京洛に疫病が流行したため、病魔退散を祈願したところから始まったそうです。まだ、抗生物質や抗ウイルス剤がなかった時代、目に見えない病原菌による感染症は、恐ろしい存在だったことでしょう。
いまでも、わたしたちの生活と感染症は切っても切れないものです。疫病といえば、宮崎で起こった
感染症問題でも注目すべきは、わたしたち医師が、安易に抗生物質や抗ウイルス剤を使っていることです。
1980年代の日本では、抗生物質が効かない病原菌が爆発的に増えました。薬が効かない病原菌に感染すると、死亡する危険性が高く、院内感染の原因として大きな問題となりました。原因は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin resistant Staphylococcus aureus:MRSA)です。日本は諸外国と比較すると、MRSAの感染数が際立って高かったため、多くの命が失われました。MRSAが広がってしまった原因は、いくつも考えられますが、そのひとつは、医療現場で抗生物質が乱用されたことが挙げられます。その結果、メチシリンをはじめとする抗生物質が効かなくなってしまいました。
最近は、抗ウイルス剤が日本で、大量に使われています。実際、日本は、インフルエンザに用いられるタミフルの消費量が非常に多く、日本だけで世界の70~80%を消費しています。
どうして、日本では抗生物質や抗ウイルス剤が、乱用されてしまっているのでしょうか。それは、医療従事者への感染症の教育が不十分なことが大きな原因と考えられます。
医学部を卒業後、一度は臨床の現場で活躍しいていたわたしの後輩が、感染症を学ぶために、国立感染症研究所で研修をしています。しかし、生活は厳しく、研究費も少なく、「バイオテロがおこっても、今の日本では対応が難しいと思います」と、真剣な顔で話してくれました。
夏休みになり、海外へ旅行する人も増えてきます。世界の各地にある感染症が、知らないうちに日本へ持ち込まれることも、予想されます。清和天皇の時代に起きた疫病が、再び時代を変えて、現代の日本で起こらないとも限りません。感染症対策、大変に重要な問題です。
まずは、医師をはじめとした医療従事者が、しっかりと感染症についての知識を学ぶ必要があります。その上で、安易な抗生物質や抗ウイルス剤の使用をしないことが大切です。
こんなときこそ、漢方薬の出番です。抗生物質も抗ウイルス剤もない時代に活躍した漢方薬をうまく活用することで、多くの感染症を治療することができます。例えば、
よいタイミングで漢方薬を使うことで、抗生物質や抗ウイルス剤を使うことなく、風邪を治すことができます。抗生物質と抗ウイルス剤の使用量を減らすことで、第二のMRSAを生み出さないようにしましょう。漢方薬が、その原動力になります。
どうか、日本全国の医療従事者が、積極的に漢方医学を学び、感染症に負けない国になってもらいたいものです。
10年来、通っている床屋へ、久しぶりに行ってきました。床屋の
世界で最初の外科医は床屋の職人だった、と言われています。床屋の前に飾られている「赤、青、白」のマークは、「動脈、静脈、リンパ」を表しているという説もあるそうです。そんなこともあり、外科医のわたしは、床屋の職人芸にこだわりがあります。
以前、髪を扱うことを専門にしている方から、「病気になると髪が変わるんですよ」と教えていただいたことがあります。どんな風になるのかとたずねると、「髪が、細くなり縮れてきます」とのこと。なるほど、髪に栄養が行き渡らないために、弱くなってしまうんだなぁと納得しました。
「髪だけでなく、地肌も変わります」と、さらに話は続きました。「血流が悪くなるため、地肌の色が悪くなるんでしょうね」と、解説を入れてもらいました。
この話を聞いてから、自分の地肌の色が気になり出しました。体の調子が悪いとき、地肌の色が悪くなるのならば、地肌の色をできる限り、良い状態に保つために何かできないものか、と考えるようになりました。
なぜ、わたしが髪のことに興味を持っているのか、というと、私自身、抜け毛と白髪に悩んだことがあったからです。5年ほど前、スイスへ留学していたときのことです。ストレスのために、髪を洗うたびに大量の髪が抜けるようになってしまいました。日本に帰ってきた時には、わたしの頭には白髪も目立つようになっていました。
体調と髪は切っても切れない関係にあることは、自分の経験からよくわかりました。外来に髪の問題を抱えている方が来れば、同じ気持ちになって問題解決に取り組むようになりました。
仕事のストレスや、人付き合いのプレッシャーなど、精神的な問題が原因と考えられる場合は、少しでも精神的負担を軽くする漢方薬を処方するようにします。例えば、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)です。
男性でも女性でも、年齢の変化で髪が薄くなることがあります。以前にも、書かせていただきましたが(2013年5月10日「髪の悩み、男と女で処方違う」)、脱毛における漢方治療のポイントは、男性には元気をつけるように、女性には女らしさを取り戻すような処方を心がけることです。加齢の変化やホルモンのバランスが原因と考えられる場合は、地黄(じおう)が含まれた漢方薬を処方するようにしています。男性には八味地黄丸(はちみじおうがん)、女性には四物湯(しもつとう)です。
がん化学療法による脱毛には、なかなか良い方法がみつかっていません。治療中は、髪だけでなく、眉毛もまつげも抜けてしまいます。少しでも軽くなるようにと、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を使っています。
わたしがまだ幼稚園に通っている頃、叔父から「人は、どうして年を重ねると髪がうすくなるのか」と質問されたことがあります。一緒にいた兄は、すかさず「勉強のしすぎでしょう」と答えていました。わたしはその後、こっそり飲んだ漢方薬のおかげか、不勉強のおかげか、髪がうすくなることなく今にいたりました。
髪と体調管理、毎日の手入れをおこたることなく過ごしたいものです。もし、髪のことで悩んでいらしたら、一度、漢方医に相談されてはいかがでしょうか。
皆さんは、ワールドカップの試合、ごらんになりましたか。わたしも日本代表チームの活躍に、一喜一憂させていただきました。前に向かって頑張る姿勢、大きなプレッシャーを抱えながら走り回る姿に、感動を覚えました。
スポーツは、小さな頃から大好きです。スポーツを見ることで、心を動かされ、実際に運動することで、精神的に強くなります。スポーツをするには、心と体のバランスが大切です。「心技体」をひとつにすることが肝心だ、という人もいます。心と体、切っても切り離せないようですね。
日本代表の選手たちも、目標に向かって、心と体のバランスを調整したのだと思います。
みなさんも、試験やプレゼンテーションなどのさまざまな試練に、日々、心と体を整えていると思います。そんな毎日の生活の中で、一番、心と体の調子を整えることが求められるのは、どんなときでしょうか。例えば、「朝、起きる」「家族にあいさつをする」といった、小さなことかもしれません。
夢の世界から現実の世界へ、目をつむって真っ暗なところから目を開けた明るいところへ、違った空間が広がります。みなさんは、朝、すっきりと起きられていますか。わたしも、前日の仕事のことが気になり、目覚めが悪かったり、体調が優れず、起きられなかったりします。精神的な負担があると、睡眠がうまくとれないことが多くなります。肉体的な負担が大きいと、寝ても疲れがとれなくなります。
「朝、起きる」ことに、心と体、どちらにも影響するわけです。朝、どんなに眠くても、体が重くても、起きることを決めるのは、自分自身です。自分の力でしか、起きることはできません。「朝、起きる」ことは、自分の力を確認するバロメーターになります。
学校でも、会社でも、あいさつをすることは大切です。口からあいさつの言葉を発声するには、エネルギーを使います。エネルギーを使うには気力と体力が必要です。気分が優れないときは、声が小さくなります。体力がなくなると、声が小さくなります。
あいさつ一つとっても、心と体が関係しています。「家族に、あいさつをする」のは、自分の気力と体力をみるために大切な行動です。あいさつをすることで自分とまわりをつなげることになります。「家族に、あいさつをする」ということは、自分と自分以外の人との関係をうまく行えるかどうかのバロメーターになります。
わたしが、患者さんの診察をする上で大切にしているのは、患者さんの毎日の生活の様子です。「朝、起きる」「家族にあいさつをする」といった、毎日の生活のほんのちょっとしたことから、心と体の状態を探ることができます。みなさんも自分の生活を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
最後になりましたが、6月27日から29日まで、東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて日本東洋医学会学術総会が開かれます。今回の市民公開講座は、講談師の神田香織師匠による漢方講談です。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。