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ジンジャーティーで体を温めましょう

 寒い冬の季節、みなさんはどうやって体を温めていますか。

 最近は、保温効果に優れた下着が登場し、昔に比べると寒さ対策の選択肢が増えてきました。しかし、体を温めるには、体の中から温めることがポイントです。

 体の中から温めるためには、生姜しょうがをうまく使うといいでしょう。主婦の皆さんは、生姜を調味料として活用されていると思いますが、生姜は漢方薬に薬草としてよく用いられます。

 漢方薬で用いられるものには、生の生姜と、蒸して干した乾姜(かんきょう)の2種類があります。

 生姜は、すり下ろして薬味に用いたり、酢漬けにしてお寿司すしのガリとして食したりします。生のままですと、毒消しや胃の働きを助ける効果があります。主成分は、ジンゲロールです。風邪の時に使われる桂枝湯(けいしとう)に用いられます。

 乾姜は、乾燥させて保存されていた生姜など、ジンジャーティーに使われています。主成分はショウガオールです。腸閉塞の時に使われる大建中湯(だいけんちゅうとう)に用いられます。
 

年末に向けて漢方薬が必需品です

これから年末に向けて、忘年会、クリスマスパーティー、仕事納めとイベントが続く人が多いと思います。こんな時こそ、漢方薬の出番です。

 食べ過ぎ、飲み過ぎ、仕事のし過ぎと、何かと体に負担がかかります。体の不調はできる限り早く整えた方がいいでしょう。

食べ過ぎには

 周りの雰囲気で、つい食べ過ぎる場合もあります。いつもの量以上に食べてしまい、胃もたれや胃の痛みを感じる場合があります。

 胃のもたれ、胃の痛みには、安中散(あんちゅうさん)がよく効きます。

 宴会などで供される食事は、フライや天ぷらなどの揚げ物が多いと思います。油ものは、胃の弱い人にとっては、胃もたれの原因になったり、消化不良を起こしたりすることが多い食材です。

 消化不良には、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が良いでしょう。

お酒には

 冬の宴会には、お酒がつきものです。日本人には、全くお酒が飲めない下戸げこの人が約5%いるといわれています。これは生まれつきアルコールを分解することができないからです。

 お酒を飲んで、顔が赤くなる人には、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が特効薬です。お酒を飲む前に服用しておくと、悪酔いしません。

 お酒を飲んだ翌日、よく顔や手足がむくむ人には、五苓散(ごれいさん)がいいと思います。

疲れには

 年末で仕事に追われ、体の疲れがピークに達している人も多いでしょう。昼間、何とか年内に仕上げないといけない仕事を抱え、夜は宴会続きというサラリーマンの皆さんには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が頼りになります。

 そして、この寒い時期、風邪を引かないようにたくさん服を着込んで営業に走り回っている方、会社では机に向かってパソコンにかじりついているため、肩こりがひどくなりがちです。こんな人には葛根湯(かっこんとう)です。葛根湯は風邪の時にも用いますから、この時期、風邪の予防にも役立ちます。
今年もあと10日余りになりました。1年の最後に体調を崩しては、年末年始、のんびり休むこともできません。どうか、今だからこそ、漢方薬を使って体調管理をしてみてください。良い年を迎えるために、ぜひ。

コーヒーにも合うシナモン 実は薬草です

 子供の頃、知り合いの方がお土産に持ってきてくれる京都の銘菓には、いつもニッキが使われていて、口の中に入れると独特の香りが鼻から抜けていきました。このお土産を兄弟で心待ちにしていたことを覚えています。このお菓子に使われていたのが、シナモンでした。

 最近では、コーヒーショップにシナモンのパウダーが置かれているので、ご存じの方もおいでだと思いますが、これが薬草の一種だということは、あまり知られていません。

 シナモンは、「桂皮けいひ」「桂枝けいし 」と呼ばれています。シナモンの木は、暖かい土地で発育する樹木で、この木の皮や枝を薬草として使います。

 アロマテラピーでもシナモンのオイルを使うそうです。

 シナモンは、様々な漢方薬に含まれています。風邪薬で使う葛根湯(かっこんとう)、過敏性腸症候群に使う桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、排尿障害に使う五苓散(ごれいさん)などです。


 シナモンの使い方は、3つに分けられます。

 一つ目は、上半身の症状に使います。その代表が、風邪の初期症状に用いられる桂枝湯(けいしとう)です。桂枝湯は、漢方薬の基本となる薬と言われています。皮膚にゾクゾクと寒気が走ったり、熱が出始めたりしたときに使われる薬です。冬の寒い時期など、ちょっとした体調の変化があったときにはシナモンをうまく使うと風邪の予防につながります。

 二つ目は、おなか の症状に使います。消化管の運動が低下してもたれたり、お腹が張ったりしたときに使います。過敏性腸症候群のように下痢をしたり便秘をしたりと症状が変化する場合にも、同じ桂枝加芍薬湯で治療を行います。

 三つ目は、下腹部の症状に使います。女性の月経に関係する症状に、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などのシナモンを含んだ漢方薬を用います。
このようにシナモンは、わたしたちの体調管理になくてはならない薬草の一つです。これから冬本番、みなさんも、積極的にコーヒーへシナモンパウダーを入れて、健康管理をしてみてはいかがですか。

自分の健康を知る方法(10)肩こりに2つの原因

 師走、今年もあとわずかになりました。みなさんは、仕事場や家の片付けを始めていますか。わたしも少しずつですが、自分の仕事の整理をするように心がけています。でも、たまった書類を見るだけで、肩がこってしまい、やる気が出ないこともありますね。

 若い方でも肩のこりを訴える方が増えています。それはパソコンが普及してから、日常生活の過ごし方が変わったこととも関係があるようです。じっと、パソコンの画面とにらめっこしていると、体のどこかに力が入り、目が疲れたり、肩がこったりしてきます。最近では、スマホを電車の中で変な体勢で操作したり、歩きながら画面を見たりと、体の使い方もかわったようです。

 昔は、肩こりは「運動不足」の一言で片付けられていました。しかし、最近では、肩こりの原因は、そんなに単純ではないようです。

目の疲れから

 まずは、目の疲れからくる肩こりです。眼鏡を使っている方に多く、パソコンなどを長時間使っていると目の周囲の筋肉が緊張したままの状態となり、場合によっては頭痛になる場合もあります。この肩こりは僧帽筋(そうぼうきん)に一致して広がっていきます。僧帽筋というのはお坊さんの頭巾のような形をした筋肉です。目の疲れから頭痛、肩こりとなる症状には、「葛根湯(かっこんとう)」を用います。

冷えから

 つぎは、冷えから来る肩こりです。寒い時期になると増えますが、夏の冷房の季節にも多い肩こりです。首や肩を冷やさないように心がけることが大切です。この肩こりは首から両腕にかけて広がることが多く、「桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)」が用いられます。

やはり運動は大切

 どちらの肩こりにも、運動が大切なことは言うまでもありません。目の疲れからくる肩こりの場合は、こめかみをマッサージしたり、頭皮をほぐしたりするといいでしょう。冷えから来る肩こりの場合は、首と肩の運動をすると効果的です。

 年末まであと数週間、仕事もプライベートも忙しくなってきます。自分の体の状態を観察する目を持って、体調管理に努めてください。もし、体の調子がうまく整わなかった場合は、医師、薬剤師、看護師へ遠慮なく相談されてはいかがでしょうか。

自分の健康を知る方法(9)「元気」を作る気力、体力、消化力

木枯らしが吹き、寒さが一段と厳しくなってきた今日この頃ですが、みなさんは元気に過ごされておいでですか。

 「元気」のバロメーターは、一人ひとり、異なると思います。朝起きたときに、気分よいときは元気だと感じたり、食べ物がおいしく感じるときは胃腸が元気な状態と考えたりする人もいるでしょう。

 この「元気」という目に見えないものを漢方医学では「気(き)」として考えます。


 「気」には、3つの要素があります。

 1つめは、精神的なものをいいます。これを「空気」のようなものと考えれば目には見えませんが、「気分」「気合」「気持ち」「雰囲気」など顔の表情に表れるものと考えれば、目にも見えますね。「気分が悪い、気が滅入めいる、気が気じゃない、気のせい、気持ちが落ち込む、気力がない、気にしすぎる」といった言葉を皆さんもよく使うと思います。心の葛藤など精神的ストレスは「気」の異常と考えます。

 2つめは、体力的なものをいいます。「最近、どうも元気がない」「週末になると元気がなくなる」「よく友人から元気が足りないと言われる」など、元気は、目に見えるような、見えないような、不思議な存在です。「元気がない、疲労困ぱい、すぐに足が疲れる、目が疲れる、活動性が落ちる、活気がない、力が出ない」など肉体的ストレスは、体力的な「気」の異常と考えます。

 3つめは、消化力をいいます。胃腸の調子については自覚しやすいのですが、他人にはわからないつらさがあります。「胃が疲れている、胃がもたれる、胃が痛む、ゲップが出る、すぐに下痢をする、消化不良、おなかをこわす、おならが出る」などは、消化力の「気」の異常と考えます。

心も体も疲れた時は

 このような「気」の異常の治療には、さまざまな対応が必要になります。西洋医学では、体力が低下していたら栄養療法やリハビリテーション、精神的に落ち込んでいたら向精神薬などによる心療内科での治療やカウンセリング、消化器疾患ならば消化器内科と、いろいろな診療科を訪ねる必要があります。

 しかし、漢方医学ならば、全部まとめて診断から治療が行えます。元気がないときは食欲もわきません。精神的ストレスが多いときは、食べ物の味がわからなかったり、消化不良を起こしたりします。症状はひとつではありません。こんなときこそ漢方医学の出番です。

 元気がなく精神的にも肉体的にも疲れている場合は、「気虚(ききょ)」と考えます。気虚には、人参湯(にんじんとう)を中心とした漢方薬を用います。四君子湯(しくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)といった漢方薬も人参湯の仲間です。

 「気虚」を治すには、胃腸を整えて消化吸収力を増し、エネルギーを増すことで、元気になっていきます。これが漢方医学の治し方です。

 たくさんの診療科を受診されている方、ぜひ一度、漢方医学の診断を受けてみてはいかがですか。



自分の健康を知る方法(8)「手」は情報満載

人生に思い悩んで、易者さんに手相をみてもらった経験、ありませんか。手相を見て人生を語るのは、易者ですが、わたしたち医療従事者は、手を診て健康の状態をいろいろと知ることができます。

 よく女性は、ネイルサロンへ通い、爪先の手入れをされます。爪だけでなく、指先のケアにも心がけている人もいらっしゃいます。しかし、男性はあまり指先にまで気を配っていませんね。しかし、手からは、大変多くの情報を得ることができます。手を診ると体の状態を推察することができます。

爪でわかる胸の病気

 爪を観察してみましょう。指の爪は1日に0.8~1.2mm成長します。爪は、よくカルシウムでできているとまちがわれていますが、髪の毛と同じケラチン組織でできています。

 変形した爪は、数週間前~数か月前、爪の根部に何らかの刺激が加わったことによって起こると考えられています。たとえば、体調が悪かったり、栄養状態が不良だったりした時期や、抗生物質などたくさん薬剤を服用した時期に、爪の変形がはじまることがあります。爪の変化は体調の変化と、よく相関します。

 典型的な爪の変形の仕方があります。慢性的な呼吸器疾患や心臓病では、爪が変形して、丸みを帯びた三味線の「バチ状」にふくらみます。この「バチ状爪」の人の中に、肺がんを患っている人もいますので、注意が必要です。

 「バチ状爪」とは逆に、へこんでいる爪の人がいます。これは貧血によることが多いと思います。貧血の場合は、爪自体ももろく、割れやすいことが多いと思います。

 がん化学療法でも、爪のトラブルが発生します。爪周囲の皮膚が荒れ、爪の変形、色素沈着などが起こります。

 爪の変化を漢方医学の「気血水(きけつすい)」から考えると、「けつ」の異常と考えます。「血」が足りないために爪に異常が起きていると判断し、「血」を補う薬を処方します。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が代表です。

指先が白い場合

 つぎに、指先をみてください。指先を冷たい氷などで冷やすと白くなる人は、血流が悪い場合があります。小学生の頃にしもやけになったことがある方は、同じ理由です。

 指先が白くなることをレイノー現象といいます。温度や振動によって指先まで血液が流れなくなる場合、レイノー病と診断されることもあります。これは、長くたばこを吸っている人や膠原こうげん病の人に起こる病気です。

 このような末梢まっしょう 血流障害を訴える場合は、プロスタグランジン製剤やニコチン酸系剤などが使われます。指先の血流障害を、漢方医学では「血」の異常と考え、「血」の流れを良くする当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を用いて治療をおこないます。

指先が黒い場合

 逆に、がん化学療法を受けている人は、指先が色素沈着で黒くなる手足症候群がおこることがあります。とくにカベシタビン(ゼローダ)など5-FU系抗がん剤を使っている場合、色素沈着でお悩みの方は多いと思います。

 治療方法は、こまめに尿素クリームやステロイドを塗ったり、ビタミンB6剤を内服したりするのですが、なかなか良くなりません。

 わたしは手足症候群の治療には、その人の症状に合わせて漢方薬を処方するようにしています。たとえば、色素沈着がひどく、皮膚もひび割れてしまっている場合、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)。あかく腫れ上がり、水疱すいほう形成している場合は、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)などです。

 指先を診るだけでも、こんなにたくさんの情報を見つけることができます。爪の手入れをしながら、ご自身の健康ももう一度、よくみつめてみてはいかがでしょうか。

自分の健康を知る方法(7)胃を守るポイント

食欲の秋、みなさんは季節の食材、楽しく召し上がっていらっしゃいますか。山の幸、海の幸など、秋には味覚を刺激するたくさんの食材が八百屋さんや魚屋さんの店頭に並んでいます。昔から季節のものを食することは健康にも良いと考えられています。流通機構が整備されていなかった時代には、なかなか手に入らなかったものが、現代では容易に家族団らんの食卓に並べることができます。

 しかし、せっかくのごちそうも、胃がもたれたり、胸焼けがしたりなど、体調が悪くては、食欲がわきません。

 胃の調子を良くする方法を考えてみましょう。自分の舌を診て胃の調子を知る方法は、「苔(こけ)」「歯形」でした(2013年10月4日「自分の健康を知る方法(1)朝、舌を見る」参照)が、もしも調子が悪いとき、胃を整えるにはいくつかポイントがあります。

1.温かいものを最初に胃の中へ入れること
消化管の働きは、温度によって左右されます。冷たい食べものは胃の動きばかりでなく、腸の動きも悪くします。特に寒い時期の食事は注意が必要です。「サラダは体にいいから」と、コンビニで買った冷たいサラダを一番最初におなかの中へ入れてしまうと、一気に胃が固まって動かなくなります。消化力は落ち、胃もたれの原因につながります。

 そこで、食事をするときには、かならず温かい飲み物や食べ物を先に胃の中へ入れてあげるようにしましょう。そうすることで胃の内側に暖かい布団を敷いてあげることができますから、あとから入ってくる冷たい食べ物で胃の壁を傷めることはありません。

2.濃いものは、うすめること
塩味、甘みなど、お好きな方はどうしても濃い味つけになってしまいます。濃い味の食べものは、濃度も高く、浸透圧も高くなりがちですから、直接、胃の粘膜を刺激します。胃粘膜の炎症やびらんなどの原因になります。

 味の濃いものを食べるときは、いっしょに薄味のものと組み合わせるように心がけましょう。

3.軟らかいものでも、よく噛みましょう
硬いものをまないで飲み込んでしまうと、のどにつかえてしまいますから危険です。柔らかいものもよく噛まないといけません。どんな食べ物でも、噛まないで飲み込んでしまうと消化するために胃をいつもより働かせなければなりません。胃を必要以上に使うことで胃が疲れてしまい、胃もたれの原因にもなります。

 わたしが小さい頃、祖母から「食べ物ばかりでなく、飲み物もよく噛むように」とよく言われました。噛むことで唾液が分泌され、食物繊維が細かくなり消化を助けてくれます。噛むことの効用は消化ばかりでなく、脳へ対しても有効です。噛むことによって脳へ刺激を与え、ボケの防止にもつながります。

漢方薬には、「健胃剤」というものがあります。胃を健康にする薬です。胃の調子を整えてくれます。その代表が六君子湯(りっくんしとう)です。最近の研究では、六君子湯に含まれるソウジュツという薬草が食欲中枢に働いて、がんによる食欲低下を改善することがわかっています。また、実験では、六君子湯がマウスの食欲を増すばかりか、がんにかかったマウスの寿命も改善するという結果がでています。

 衣食住のうち、健康な体を作るには、食を整えることがもっとも重要です。健康を保つために、食材ばかりでなく、食べ方にも注意して、健康管理をされてはいかがでしょうか。


自分の健康を知る方法(6)おなかの調子

すぐにおなかをこわしてしまう人、一週間に1回しか便通がない人など、下痢や便秘で悩んでいる人は多いと思います。最近は、ヨーグルトで腸を整える人や酵素などを使っている人がいらっしゃいます。

 便通のコントロールは、体にとって大変重要です。腸の中の状態が良いと便通もスムーズで体調も良いことを経験された方は多いと思います。医学的にも腸内環境を整えることで健康を保つことができると考えられています。

 漢方薬には、腸内細菌に作用して腸内環境を調節する力があります。わたしがおこなった実験結果では、マウスに手術を行うと体力が落ち、毛並みが悪くなります。手術を受けたマウスの腸内細菌を遺伝子解析で使って調べてみると大きな変化が起こっています。しかし、漢方薬を投与しておくと、腸内細菌は手術を行っても変化せず、毛並みも悪化しません。漢方薬が腸内環境を調節してくれたお陰です。

 次のグラフは、腸内細菌の分布を示したもので、「漢方薬なし」に比べて、「漢方薬あり」のグラフの形が、通常の分布に近いことがわかると思います。

便通を整えることは、大切だと言うことがこの実験からわかります。

 便通の状態は、なかなか他人には相談できないことですから、一人で悩んでいる方が多いと思います。そんな方はぜひ、遠慮せず医師、薬剤師、看護師へご相談ください。そのときに、便利なのが、ブリストールスケールです。これは便の性状を7段階にわけたものです。

 あなたの便は、どれにあたりますか。ブリストールスケールの(1)のタイプの人は、便の回数も少ないと思います。(7)のタイプの人は回数が多く、何度もトイレに行くことになります。というのも、便の状態と回数は関係があるからです。

 腸の中に便がとどまっている時間が短いと下痢になり、時間が長くなるにつれて硬い便になります。

 食中毒や大腸炎など、腸の中の状態が不安定な場合には、軟らかい便になりやすく、腸内環境を整える必要があります。また、おなかの動きが悪く、食生活が不規則な場合には、硬い便になり緩下剤などを使う必要があります。

 漢方医学では、単に整腸剤や緩下剤を使うだけでなく、下痢の場合は腸管の運動を調節する作用を持った大建中湯(だいけんちゅうとう)や抗生物質と抗炎症作用を併せ持った半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を使います。

 硬い便の場合は、緩下剤としてダイオウ、ボウショウ、マシニンといったものを含んだ漢方薬をはじめ、おなかを温めたり、腸内環境を変える漢方薬を使ったりします。下痢の時に使う大建中湯はおなかを温めてくれますので、便秘の時にも効果があります。

 おなかの状態を整える漢方薬は、あなたの健康も整えてくれます。四季折々、あなたの体調にあった漢方薬を選び、健康を管理することをおすすめします。

自分の健康を知る方法(5)風邪を悪化させない

日に日に涼しさが増してきます。寒い冬への備えは万全ですか。今年もインフルエンザの季節が、もうそこまで来ています。予防接種はおすみですか。

 職場や電車の中で、くしゃみをする人やせきをしている人がだんだんと増えてきます。多くの感染症に対して、マスクは非常に有効な予防方法です。

 しかし、注意しなくてはいけないのが、マスクの付け方です。どんなに性能のよいマスクを付けていても、鼻の周りや顎のあたりに隙間ができていては、ダメです。隙間からウイルスが侵入してきてしまいます。しっかりと顔にフィットさせることが重要です。

もしも風邪を引いてしまったら

 マスクで予防をしていても、風邪にかかることがあります。こんなときこそ、漢方医学の出番です。有名な「風邪には葛根湯かっこんとう」という落語では、とにかく風邪にかかったら葛根湯ばかり処方する医者の話ですが、実際にはそう簡単ではありません。

 まずは、これまでお話ししてきた舌、脈、おなかの診方を参考にして、自分の体質を見きわめる必要があります。体力がある人、すぐに疲れる人など、体質は様々ですが、漢方医学では、「虚実きょじつ」で体質をはかることができます。

 風邪に使われる漢方薬に、葛根湯、小青竜湯、麻黄附子細辛湯があります。どの薬も即効性があり、速やかに症状を改善してくれます。

 ただ、この3つの漢方薬を有効に使うためには、「風邪の初期」であることがポイントです。「ちょっと首筋がこっている」「なんだか肩が重い」「鼻がムズムズする」「のどの違和感を感じる」など、いつもとちがう自分の体調の変化をいち早く察知して治療を開始することが重要です。もしも、体調の変化を発見できたら、すぐに自分に合った漢方薬を内服します。

 このとき、かならず白湯さゆで漢方薬を飲むことを忘れないでください。3つの漢方薬はすべて体を温める作用を持っていますので、冷たい水を飲んでしまうとお腹の中から冷えてしまい、漢方薬の作用を弱めることになります。漢方薬を飲んだ後は、できる限り体を冷やさないように努めます。冷たい水で手を洗ったり、裸足で歩いたりはしないでください。

 食事も大切です。風邪の時は元気をつけなくてはと、焼き肉を食べる人がいますが、これは本当に胃腸が丈夫で体力がある人だけにしてください。風邪の時は胃腸も弱っていますので、おかゆや温かいうどんなどにネギやショウガを入れて体の芯から温まるようにされるとよいでしょう。

ペニシリンがない時代からの漢方医学

 わたしたち、人間の歴史は、感染症との闘いと言っても過言ではありません。1929年にペニシリンが発見されるまで、感染症は多くの命を奪ってきました。様々な薬が開発された現在も、世界の各地ではいまだに感染症対策が重要な施策として行われています。

 漢方医学では、ペニシリンがない時代から風邪の治療を行ってきました。今回お話しした3つの漢方薬以外にも、症状に合わせていくつもの漢方薬が準備されています。もし風邪で困ったときは、漢方医学を思い出してみてはいかがでしょうか。きっと、あなたの健康に役立つと思いますよ。

自分の健康を知る方法(4)天気で変わる、体の調子

 台風が近づいています。住まいの点検はおすみですか。危機管理としては、家族との連絡方法など、いくつか確認しておく必要があると思います。

 昔から、雨の日の前になると古傷が痛む人がいらっしゃいます。お年寄りからは「神経痛が悪くなる」と言われることもあります。これはどうしてでしょうか。

 天気と健康の関係については、いろいろな学説があります。昔、「気圧と急性虫垂炎は、関係がある」という論文をみたことがあります。これによると低気圧になると免疫系に影響を与えるために急性虫垂炎が起こりやすくなるそうです。そこでわたしは自分が手術をした数百人のデータを手術日の前日と当日の天気と照らし合わせてみましたが、気圧との関係を見つけることはできませんでした。

 しかし、私のクリニックへお見えになる患者さんたちを診せていただいていると、やはり天気と体の調子は何か関係がありそうです。

 例えば、気圧が下がる時期になると頭痛がする人。雨の日前後は、月経痛が重くなる人。体のむくみがひどくなるのが、決まって気候の不安定な時の人、などです。

 漢方医学では、この気圧による変化を「水毒(すいどく)」と考えます。天気によって体調が変化する人は、体がむくみやすかったり、めまいや頭痛などの症状を訴える人が多くいらっしゃいます。また、関節の痛みや体の不調が天候に左右されるなど、天気によって体の調子が変わりやすい場合、「水毒」への配慮が必要となります。

 「水毒」によく用いられる漢方薬は、五苓散(ごれいさん)です。五苓散には、水のバランスに作用するアクアポリンを阻害して水の移動を抑えることにより、「水」の巡りを改善する作用があることがわかっています。

 天気によって体調が崩れる人は、「水」に気をつけて、体調管理をされるとよいでしょう。また、「水毒」をさらに悪化させる原因として、「寒さ」が関係することがあります。とくにこの時期は、体を冷やさないように注意してください。