お知らせ
コラム

コラム

がんの緩和ケアに漢方の力

 「これでいいのだ!」をメインテーマに、日本緩和医療学会学術大会が、19日から21日の予定で神戸で開催されています。「これでいいのだ!」とは、患者さんや家族がその一瞬、その日、その月、その年をこれでよかったと思える、その人らしい生活を支えることが緩和ケアだ、という思いが込められたものです。

 最近、緩和ケアという言葉は、広く使われるようになりました。昔は、がんの末期を支える治療法を意味していました。最近では、患者さんの精神的ケアと肉体的ケアばかりでなく、家族のケアを行うことも含むようになりました。そのため、医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療従事者ばかりでなく、さまざまな人の力が必要になっています。医療だけでは解決ができない、介護や福祉にまで関係するからです。緩和ケアとは、がん患者の生活を支える取り組みだと言っても良いでしょう。

体の痛みと心の痛み

 2006年6月に、がん対策基本法が成立し、日本のがん治療は大きく方向転換しました。それまでのがん治療は、三大治療法(外科治療、薬物治療、放射線治療)という攻めの治療が主役でした。ここに守りの治療である緩和ケアが、加わったのです(2012年12月14日「守りを固めるためには、漢方医学」もご覧ください)。

 まず最初に取り組まれたのが、緩和ケアの痛みに対する治療(ペインコントロール)と精神的な対応(メンタルケア)でした。

 当時は、医療用麻薬の使い方を十分に理解していない医師がほとんどで、知らず知らずのうちに「痛みは我慢すること」という治療方針になることが、当たり前のような状況でした。本当に、悲しいことです。

 そこで、ペインコントロールを得意とする麻酔科医にスポットライトが当たりました。それまで手術室で仕事をしていた麻酔科医が、病棟のがん患者さんの元へ出かけるようになりました。痛みがあるがん患者さんへ医療用麻薬を積極的に使うようになり、おかげで、痛みの苦しみから多くのがん患者さんが解放されるようになりました。

 ペインコントロールには、漢方薬が活躍しています。例えば、医療用麻薬で取り切れない痛みに、「附子(ぶし)」を加えると、薄皮をはぐように楽になります。医療用麻薬の副作用である便秘には、「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を併用するとスムーズな排便ができるようになります。

 がんと診断された時点から苦痛は始まります。自分の将来、家族の未来など精神的な負担は大きくなるばかりです。そこで、メンタルケアのため、精神科医が積極的にがん患者さんに関わるようになりました。それまでは、口にすることができなかった心の悩みを医師に相談することができるようになりました。

 メンタルケアにも、漢方薬が使われています。不安でいつも何かのどに詰まっているような症状には、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を使うとスーッとのどの通りが良くなります。がんに対する不安が強いときは、加味帰脾湯(かみきひとう)です。加味帰脾湯は、貧血、不眠症などにも用います。

チームのメンバーに漢方医も

 緩和ケアは、麻酔科医、精神科医ばかりでなく、様々な領域の医療従事者が集まってチームで行うものです。チームのメンバーが、問題を解決するために、いろいろなアイデアを出し合いながら、より良い医療を提供できるよう努力します。このチーム医療に、漢方医学も加わり、少しでもがん患者さんのためになれば、と思います。古くて新しい漢方医学は、かならずがん患者さんのために役立つはずです。

食中毒予防 手洗いのコツは「水の量」

 梅雨時になると、食中毒が心配になります。湿気と温度が、細菌やウイルスの増殖を活発にします。みなさんは、食中毒対策をされていますか。食中毒予防の3原則「つけない」「増やさない」「やっつける」を守りましょう。

その1「つけない」

 目に見えない細菌やウイルスが原因となる食中毒は、夏に多く発生します。目に見えないので、知らないうちに口の中へ運んでしまい、体の中で毒素が増え、嘔吐おうとや下痢などの食中毒症状を引き起こします。まずは、手洗いをしっかりと行い、手に細菌やウイルスを「つけない」ように、心がけましょう。

 手を洗うとき、爪や指の間などに注意して洗っていらっしゃる方も多いと思います。そんな慎重派の方に、一言、コツをお教えします。以前、わたしが勤務していた病院で行った手洗い実験でわかったのですが、効率よく手の汚れを落とすには、水の出し方にポイントがありました。水の量です。手を洗うとき、勢いよく水を出し手洗うと、手の汚れが効率よく落ちることがわかりました。

 石けんをつけて念入りに手を洗う時間があるときは、良いのですが、急いでいるときなど、役に立つ方法です。一度、水道の蛇口を思いっきりひねって手を洗ってみてくださいね。

その2「増やさない」

 食品の保存方法は、低温で保存することです。細菌もウイルスも、低温にすると増殖がゆっくりになります。凍らせてしまえば、さらに増殖しづらくなります。マイナス15度以下になると増殖しなくなります。一般家庭の冷蔵庫は1~7度、冷凍庫はマイナス18~22度と言われています。食中毒予防のために、食品を保存するには冷凍庫に保管する必要があります。毎日の生活で活用するのは冷蔵庫の方が多いでしょうが、冷凍庫もうまく使って「増やさない」ように心がけましょう。

 ちなみに冷蔵庫のドアポケットは、比較的温度が高くなりますから、食品を保存するときには、気をつけましょう。

 お弁当作りを担当しているお母さんは、お昼までの間に、細菌やウイルスを増やさないように、注意する必要があります。温かいままで、お弁当に入れないようにすることが大切です。また、梅干しやわさびなどをうまく活用して、細菌の増殖をおさえる工夫も必要です。以前にお話させていただいた「食べ物と付け合わせの効能」 (2014年1月17日「冬の牡蠣、ファストフード多い方に」より)を参考にされてはいかがでしょうか。

その3「やっつける」

 ほとんどの細菌やウイルスは、加熱することで死滅します。不十分な加熱で、食中毒になることもありますから、注意してください。方法は、中心部が75度以上、1分以上加熱することがポイントです。電子レンジをお持ちの方は、うまく活用すると良いでしょう。電子レンジで2分間加熱すると、ほとんどの細菌やウイルスは死滅します。

 ただ、加熱する前に細菌がすでに毒素を作り出してしまっていると、いくら加熱しても食中毒にかかる危険性がありますから気をつけてください。

それでも調子の悪い時は

 食中毒予防の3原則をしっかりと守っていたけれど、何となくお腹なかの調子がおかしい時、漢方医学の出番です。

 一般に、食中毒の原因によって治療方法は違います。細菌性食中毒は、抗菌剤である抗生物質投与と水分補給が基本です。ウイルス性食中毒は、有効な抗ウイルス薬がほとんどありませんので対症療法となります。また、毒素による症状には、対症療法と点滴などの水分補給が中心になります。

 漢方医学では、症状によって治療方法が決まります。胃痛、吐き気、嘔吐など胃に関係する症状が中心の場合は、胃苓湯(いれいとう)を使います。腹痛、下痢など腸に関係する症状が中心の場合は、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を使います。胃の症状なのか腸の症状なのか、迷ったときは柴苓湯(さいれいとう)を使います。どの漢方薬も抗生物質といっしょに使っても問題がありませんので、併用すると良いでしょう。

 梅雨時の食中毒、予防の3原則をしっかりと守って予防したいものです。うっとうしいこの時期も、どうか、健康で元気にお過ごしくださいますように。

漢方による不妊治療とは

 梅雨のシーズンですね。湿気と暑さで、過ごしづらい日が続く中、わたしのクリニックに通っていらっしゃった女性から、「おめでた」の知らせが届きました。それも、二人の女性から続けてでしたので、うれしさも「倍返し」です。このすばらしい報告に、梅雨の煩わしさも忘れ、わたしは幸福な気持ちを満喫させていただきました。

 日本は、少子化と高齢化という大きな問題を抱えています。この問題には、核家族による育児の負担、男女機会均等法による女性の社会進出など、さまざまな背景があると言われています。即席麺や冷凍食品などを中心とした食生活、インターネットによる昼夜逆転現象など、生活環境の変化も指摘されています。

 わたしは、産婦人科医である村田高明先生から、7年間、漢方医学を学びました。村田先生の外来には、冷え症、月経困難症、更年期障害など女性特有の病気で悩んでいらっしゃる患者さんが、大勢お見えになりました。もちろん、不妊症の方もたくさん外来に来られ、いろいろと学ばせていただきました。この経験が、いまのわたしの財産の一つになっていることは、言うまでもありません。

 わたしのクリニックにお見えになる方の多くは、長年、不妊治療を受けてきたという方です。タイミング療法ではうまく妊娠することができず、ホルモン療法、体外受精など、専門病院での治療を受けてきた方です。わたしとしては、もっと早く来ていただいた方が良いのですが、流産を繰り返して半ばあきらめている方や、年齢を重ねて「最後のチャンスに」という方もいらっしゃいます。

 みなさんに、まずは、いろいろと質問をさせていただきます。衣食住はもとより便通の状態や睡眠など、健康に関することをひとつひとつ聞いていきます。すると、いろんなことがわかります。基礎体温は正常で、ホルモンバランスも問題ないのですが、夫が出張ばかりしていて、家にいる時間が少ないために会話がなく、精神的なバランスに問題がある方や、食事が偏っているために便秘がひどくていつもお腹なかが張っている方など、様々な問題点が明らかになります。

 漢方薬を使った治療を始める前に、まずは、精神的なバランスを整えることを指導し、規則正しい食生活と便通をコントロールすることの大切さを説明します。そうやって、全身状態を整えてはじめて、不妊治療に取りかかります。

 不妊治療に使われる漢方薬の代表は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。昔から「安胎薬(あんたいやく)」と呼ばれ、不妊症治療にはなくてはならない薬です。ただ、胃に負担がかかることがありますから、服薬指導をするときには注意が必要です。

 そして、月経周期に合わせて、細かく生活指導をはじめ、服薬指導をしていきます。手間と暇がかかる治療ですが、結果が出たときの感動は、素晴らしいものです。

 西洋医学ですべてが解決するのであれば、わたしが漢方医学を使う必要はないかもしれません。しかし、現実は厳しいものです。最先端医療を駆使した不妊治療でも良い結果が得られないときこそ、漢方医学を活用する絶好のチャンスです。不妊症に悩まれている方は、ぜひ一度、漢方医に相談してみてはいかがでしょうか。

夏の冷房対策 首回りを冷やさないように

 東京タワーは、今朝も輝いています。わたしは、晴れの日も、雨の日も、そびえ立つ東京タワーを見ながら暮らしています。決して、言葉を発することがない東京タワーですが、落ち込んでいるときは「がんばれ」と声をかけてくれている気がします。

 みなさんの家の窓からは、何が見えますか。山並みが広がる、海が見えるなど、毎日の生活で、見落としがちな自分を取り巻く環境は、わたしたちの健康に大きな影響をおよぼします。

 これからのシーズン、通勤電車の中は、冷房が入るようになります。梅雨時の湿気対策と、暑さ対策のためです。家を出るときは薄着ですが、電車や会社では、冷房対策が必要になり、上着を持ち歩く人もいるでしょう。周りの環境に合わせて、洋服で体調管理をすることが重要になってきます。

 登山をされる方は、気候の変化にうまく対応するために、服装を工夫する方法をよくご存じだと思います。都会で仕事をするサラリーマンやOLも、同じような工夫が求められています。

 漢方医学では、病気を治すために、単に薬を服用することだけではなく、服装や食事、生活上の注意点まで指導します。例えば、風邪の場合は、発熱で体がほてっていても厚着をしていただき、汗が出てきたら、下着を何度も取り換えて、汗で体が冷えるのを予防します。冷たい飲み物を飲まないように、また手を洗うときも冷たい水は使わないように指導します。

 これからの季節、冷房対策としては、首回りを冷やさないように心がけることです。首回りに冷たい空気が当たると、ゾクゾクと寒気がして体調を崩しやすくなります。のど風邪を引いてしまう方もいるでしょう。暑い時期ですが、ストールやマフラーなどを活用すると良いと思います。

足もと、お腹も冷やさないように

 職場では、机の位置によって足もとが冷える場合があります。「頭寒足熱」のごとく、足もとを冷やすのは健康には良くありません。下半身を冷やすと、お腹なかの調子が悪くなり、トイレも近くなります。こんな場合は、レッグウォーマーや膝掛けなどを使用しましょう。

 暑い中の外出から家に帰った時、どうしても、冷たい飲み物を一気にお腹の中へ入れてしまいます。しかし、以前、このブログでお話したように、体の中から、冷えないようにすることも大切です。食事のときも同様に、食べる順番を工夫しましょう。最初に、お腹に入れる食べ物や飲み物は、かならず温かいものにして、お腹の中を冷やさないようにします。一度、冷えてしまった消化管を温めるためには、たくさんのエネルギーが必要になります。お腹の中を冷やすことは、夏場に体調を崩す一因になります。

 人は皆、環境に大きく左右されます。環境によって体調を崩したり、気分が落ち込んだります。しかし、人は自分の力で、環境をうまくコントロールすることもできます。服装や食事の取り方など、簡単な方法で、季節に振り回されるのではなく、季節を楽しむことができるようになります。ぜひ、日本の四季を楽しんで、健康で元気な毎日をお過ごしくださいますように。

 

もっとも長生きな職業は?

 気持ちの良い朝、わたしは軽い靴をはいて散歩に出かけます。芝公園の緑は日に日に濃くなり、カラフルないでたちの女性が軽快にかけていきます。出勤前のサラリーマンが片手にパンを持って歩いています。増上寺の前では観光客がカメラで写真をとっています。のんびりとした朝です。短い時間ですが、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで朝日を浴びると、頭の中にエネルギーがひとつ、ふたつと生まれるのを感じます。

 「健康で長生きすること」は、楊貴妃やクレオパトラも望んだ永遠のテーマです。みなさんは、どんなことに気をつけられているでしょうか。

 わたしのクリニックには「どうすれば、長生きできますか」と、唐突に質問される方もいらっしゃいます。この質問をされる方は、実はたいへん多く、だいたいが初診の患者さんで、診察が始まって一言二言しか会話をしていないうちに聞いてくる場合が多いのです。

 しかし、この質問はまるで、哲学や宗教の真理を聞かれているようで、回答に困ります。

 そんなとき、かならず例に出して説明させていただく話があります。

 いまから約30年前に福島県立医科大学の森一教授が報告された「昭和55~57(1980~82)年における10種の職業集団の平均死亡年齢と死因に関する調査」があります。この調査は、長生きするには、どんな生き方をすると良いかを考えさせてくれます。当時行われた国勢調査をもとにしているそうです。

 わたしたちは、長い間、仕事にたずさわっていると、知らない間に肉体と精神を酷使しています。仕事があなたの健康に、大きな影響を与えます。この調査は、仕事が平均寿命にも関係があるだろう、という仮説から行われた統計です。残念ながら、当時の社会環境から、働く女性に関するデータは少なく、対象は男性だろうと考えられます。

 調査の結果、一番、長生きだった職業は、「僧侶」です。驚くことに「僧侶」は奈良時代から長寿の職業である、と記載されています。

 二番は「実業家」、三番「政治家」と続きます。どちらも定年がなく、常に社会とつながっている職業です。

 この3つの職業に共通するものは、何でしょうか。社会的地位や経済的環境など、いろいろな意見があると思います。しかし、大切なのは、当時の日本の状況を少し考えることです。1980年ごろの日本は、経済的な成長の勢いが今よりもずっと強く、その半面、公害問題もありました。当時、少し余裕ができた日本人が改めて自分たちの人生を見つめ直したとき、「健康に長生きすること」に何が大切か、を考えたのでしょう。

 この報告には、「僧侶」が長生きの理由として、ふたつのことをあげています。

 1.食べ過ぎなどに注意して、節生を心がけたこと

 2.瞑想めいそうの時間をとり、精神的なゆとりをもつこと

 当時の日本人に必要と考えられたふたつの条件は、現代のわたしたちにも当てはまるようです。

 忙しい日々の中で、ほんの少しの時間でも、健康のために体を動かし、自然の音に耳を傾ける時間を作ることが、大切なのだと考えられます。わたしの朝の散歩も、こんなところから大切にしていることのひとつです。ぜひ、みなさんも「健康に長生きすること」に、時間を作ってみてはいかがでしょうか。

お腹の音で腸の状態がわかる

 腹の虫は、「グ~」「コロコロ」「ギュルギュル」といろんな音で鳴きます。みなさんの腹の虫は、どんな鳴き声ですか。わたしもお昼が近づくと、お腹なかから音が聞こえてきます。そろそろ昼休みだと、腹時計にしている人もいらっしゃるでしょう。若い女性は、人前で鳴ることを恥ずかしく思うかもしれません。ですが、実はお腹の音は、腸の状態を知る大切な情報でもあります。

 この音は、腸が動くときの音です。腸と腸がこすれ合う音ではなく、腸の動きによって、腸の中身が移動する音です。腸の中身が、液体なのか、固体か、によって音が違ってきます。

 癒着などで狭くなった腸が、食べ物などで詰まっている状態を腸閉塞といいます。腸閉塞(イレウス)の患者さんの音は、医学的に「金属音」とされています。聴診器でお腹の音を聞くと、金属の板の上に、水を垂らしたような響く音がします。腸閉塞の時は、腸が風船のように膨らみます。膨らんだ腸の中を消化液など水分が移動するときに起こる音が、金属音です。パーンと張った腸の壁が、タンバリンをたたいたときのように音を出すわけです。こんな時、腹部のレントゲンを撮ってみると、拡張した腸が映し出されます。

 お腹の音で、腸の状態がわかります。

 わたしは、患者さんに、お腹の音が何時頃にするのか、をよく聞きます。午前中からグルグルとよく鳴る人、昼食後にゴロゴロと鳴る人、トイレの前にギュルギュルと鳴る人など、様々です。


午前中に鳴る人
午前中からお腹が鳴る人は、消化管が生まれつき弱い人に多く、シナモンが入った漢方薬を使います。シナモンには、腸管の動きを調節する作用があります。


食後の人
食後に鳴る人は、消化力に問題がある人に多く、半夏(はんげ)が入った漢方薬を使います。半夏は、消化を助ける作用があります。


トイレの前の人
トイレの前に鳴る人は、痛みを伴う場合もあります。このため、朝の電車に怖くて乗ることができなくなる人も、いらっしゃいます。この場合は、生姜しょうがが入った漢方薬を使います。生姜は、お腹を温めて痛みをやわらげる作用があります。


 みなさんのお腹の状態は、いかがでしょうか。健康で元気に毎日を過ごすために、胃腸を整えることは、大変重要です。そのためにも、ご自分のお腹の音に耳を傾けてみてはいかがでしょう。

猫の手も借りたい! 新生活で原因不明の腹痛

 突然ですが、東京都渋谷区立松濤しょうとう美術館では、5月18日まで、リニューアル記念特別展「ねこ・猫・ネコ」が開催されています。観みに行かれた方もいらっしゃるでしょうか。「猫舌」のわたしも、先日、拝見してきました。

 この展覧会は、猫の写真を持参すると、「ネコ割り」で、入場料が20%割引になるサービスがあります。ぜひ、かわいい猫の写真をお持ちの方は、持参されると良いと思います。

過敏性腸症候群?

 「過敏性腸症候群」と診断されたTさんが、母親と一緒に受診されました。Tさんは、4月から新しい学校での生活が始まったばかりの中学生です。なれない環境の中でTさんは、それまでとは違った「猫の目」のようにめまぐるしく変化する学校生活に、当初、戸惑ったそうです。毎日出される授業の課題やクラブの練習に加え、新しい仲間たちとの学校生活で、「猫の手」も借りたいぐらい忙しい毎日だったのだそうです。

 Tさんの学校生活が1か月を過ぎたころ、「朝、体がだるくて、起きられない」「食欲がなく、食べるとすぐにお腹なかが痛くなる」という症状に悩まされるようになりました。体調を崩したTさんは、徐々に学校を休むことが多くなってきました。

 心配した家族のすすめで、近くの小児科を受診したそうです。小児科では、血液検査やレントゲン検査など、一通りの検査を行いましたが、検査結果には、特に問題はありませんでした。医師から過敏性腸症候群と診断され、胃腸薬を処方されました。

借りてきた猫のよう

 しかし、数か月たっても症状は変わらず、一向に良くなりません。困り果てた母親は、友人の紹介でわたしのところを受診されました。

 Tさんから、友達の話や家での生活について、いろいろとお話を伺いました。再度、超音波検査を行い、痛くなるというお腹もよく調べてみました。小児科で行った検査結果も、あわせて見せていただきましたが、確かに問題はありません。

 しかし、母親の前で話すTさんの様子が、「借りてきた猫」のようにおとなしく、学校生活の様子は、「猫をかぶっている」ように、わたしには感じられました。

 そこで、わたしは「猫なで声」よろしく、ゆっくりと言い聞かせるように、Tさんと母親にわたしの診断についての説明をはじめました。「体には、どこにも問題はありません。安心してください。この薬を飲めば、必ず、良くなりますから」と、香蘇散(こうそさん)をお出ししました。

 このとき、わたしは、「猫が茶を吹く」顔をしていたのかもしれません。というのも香蘇散は、香附子(こうぶし)、蘇葉(しそのは)、陳皮(みかんの皮)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうが)という薬草で、できている漢方薬で、「胃腸虚弱で神経質の人の風邪の初期」に用いられます。Tさんに、過敏性腸症候群が、まさか風邪薬で治るとは、信じてもらえないだろうと思っていたからです。

 わたしの診断は過敏性腸症候群ではありません。新しい学校で、緊張した学校生活がストレスとなってTさんの体と心を疲れさせてしまったと考えていました。昔から、「五月病ごがつびょう」とも、呼ばれるこの季節独特の病気だと診断しました。わたしは、五月病を風邪に見立てて、香蘇散を選んだのです。

 2週間後、母親から電話がありました。その後のTさんは、毎朝一番に起きるようになったそうです。朝、お腹が痛くても「香蘇散を飲んだら治った」と、元気に学校へ出かけられるようになりました、と電話の向こうでうれしそうな母親の声が響きました。

原因がわからない胃腸障害に「診断名」

 最近の医学では、検査をしても原因がわからない胃腸障害には、「猫も杓子しゃくしも」、逆流性食道炎とか、過敏性腸症候群などの診断名が、つけられることが多くなってきました。原因がわからなくても診断名がつけられると、「猫のしっぽ」のような薬が処方されることもあるそうです。

 そんなときは、漢方医学の出番です。もし、薬を飲んでも体調が回復しないとき、一度は、漢方医の診察を受けてみてはいかがでしょうか。漢方医学が、あなたの健康を取り戻してくれるかもしれませんよ。そして、猫のようにしなやかなで元気な体と、みんなに愛されるやさしい精神を身につけてみては、いかがでしょうか。


※ 松濤美術館「ねこ・猫・ネコ」展についてはこちら。

歯や口が全身の健康に影響

今週も「歯」の話題です。

 わたしたちの永久歯は、全部で32本あります。固い繊維をかみ切る前歯、臼のようにすりつぶす奥歯と、歯には、それぞれに役割があります。

 歯は、毎日使う大切な身体の一部です。長生きするためには、身体のメンテナンスが必要ですが、同じように歯の手入れも大切です。外出の後に手を洗ったり、うがいをするのと同じように、口の中を清潔に保つことが重要です。歯の寿命を延ばすことが健康で長生きする秘訣でもあるのです。

 80歳になっても、自分の歯が20本以上あることが、健康で長生きする目安になるとして、8020(はちまるにいまる)運動が展開されています。8020運動のキャッチフレーズ「ひみこの歯がいーぜ」で、よくかむことの8つの効用をわかりやすく説明できます。
ひ 肥満防止 よく噛かんで食べると脳にある満腹中枢が働いて食べ過ぎをふせぎます。
み 味覚の発達 よく噛んで味わうことにより食べ物の味がよくわかります。
こ 言葉の発音がはっきり よく噛むことにより口の周りの筋肉を使うため、表情が豊かになります。口をしっかり開けて話すときれいな発音ができます。
の 脳の発達 よく噛む運動は、脳細胞の働きを活発にします。こどもの知育を助け、高齢者は認知症の予防に役立ちます。
は 歯の病気を防ぐ よく噛むと唾液がたくさん出て、口の中をきれいにします。この唾液の働きが、虫歯や歯周病を防ぎます。
が がんの予防 唾液の中の酵素には発がん物質の発がん作用を消す働きがあります。よく噛んでがんを防ぎましょう。
いー 胃腸の働きを促進 よく噛むことで消化酵素がたくさん出て消化を助けます。
ぜ 全身の体力向上と全力投球 全身の体力向上と全力投球:力を入れて噛みしめたいとき、歯をくいしばることで、力がわきます。

毎日、何気なく使っている歯に、こんな大切な役割があることを皆さんは、知っていましたか。

「先表後裏」とは

 漢方医学の治療に、「先表後裏」という方法があります。「先表」とは、風邪のような感染症、けがによる痛み、病気による様々な症状を改善することです。「後裏」とは、毎日の生活を安定して過ごすために、体質を改善し、体調を整えるために漢方薬をうまく活用することです。

 先週、お話しした、症状を治す漢方治療は、「先表」にあたります。

 80歳まで歯を健康にたもつ漢方治療は、「後裏」です。「後裏」のために、漢方医学では、ジワジワと効果がでる漢方薬を使います。

 八味地黄丸(はちみじおうがん)は、加齢に伴う身体の変化に、うまく対応するための漢方薬です。八味地黄丸は、白内障、腰痛、前立腺肥大症など、高齢者に多い病気に使われています。老化に伴う歯周病などに用いられます。

 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、ちょっとした身体の疲れや胃腸の調子を整えることで、日々の生活の質を補ってくれます。補中益気湯は、免疫力を活性化しますので口腔こうくう内環境を整えてくれます。

 「後裏」の治療に用いられるふたつの漢方薬は、味覚障害があるときにも用いられます。

 体調を整えることで、美味おいしく食事を味わえるようになります。美味しく、よく噛んで食べることが、健康につながっていきます。あらためて、自分の歯のことを考えてみましょう。歯の専門家にも定期的にチェックをしてもらい、毎日の歯の手入れもきちんとしましょう。

朝のうがいで歯を守る

みなさんは、「歯石除去」をしていますか。

 わたしは、食後に必ず歯磨きをしているのですが、しばらく歯科に通っていなかった間に、前歯にしみがついてしまいました。そこで知り合いの歯科を受診してきました。席に座ると、歯科衛生士さんが丁寧に一本ずつ「歯石除去」をしてくれました。口の中がすっきりとして、気持ちが晴れやかになりました。気にしていた前歯のしみもとれ、ホッとした気分です。定期的に受けていきたいものです。

 口元は、その人の印象を変えます。「八重歯」や「出っ歯」、歯はキャラクターの一部でもあります。何より、健康な毎日を送るためには、歯の手入れはかかせません。食べ物をよくかんで食べるために、歯は大切な道具の一つです。

 そんな大切な歯の手入れをするときに、一つ覚えておくといいことがあります。それは、口の中の環境管理です。

朝、口の中は細菌がいっぱい

 皆さんの中には、口の中は、食事の後が一番汚い状態だと考える方もいると思います。実は、朝起きたときの口の中も、かなり汚れた状態になっているんです。というのも、口の中の細菌は時間の経過とともに増えていきます。寝ている間、食べ物や水分が口の中を通過することはありませんので、細菌にとっては最適な環境が長時間、保たれます。そして迎えた朝には、細菌が口の中に増殖し、不衛生な状態になっているわけです。

 口の中の環境を整え、清潔を保つために、朝起きたとき、口の中をゆすぐことをおすすめします。漢方医学では、薬草(生薬)がうがいに使われています。
黄柏(おうばくオウゴニンによる抗菌作用、抗炎症作用など
黄(おう)ごんベルベリンによる抗菌作用、抗炎症作用、鎮痛作用など
生姜(しょうきょう)ジンゲロールによる抗炎症作用、抗潰瘍作用など
甘草(かんぞう)グリチルリチンによる抗菌作用、抗炎症作用、抗潰瘍作用など

これらの薬草が、歯磨き粉に使われている商品もありますので、自分に合ったものを選ぶと良いでしょう。

口内炎や歯の痛み、歯茎の化膿にも

 また、口に関わる病気を治す漢方薬もあります。

 以前に、お話しした「口内炎」の治療に活用する漢方薬、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)には、これらの薬草がすべて含まれています。

 歯の痛みや、抜歯後の痛みに、立効散(りっこうさん)が用いられます。

 歯茎が腫れて、化膿かのうしている場合は、排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)を用います。

 それぞれの症状に合わせた漢方治療を行うことで、健康で元気な口の中の環境管理をすることができます。


精神と肉体は切り離せない

 ゴールデンウィーク、みなさんはどう過ごす予定ですか。

 仕事の疲れをとるため、たっぷりと睡眠をとろうと考えている人、久しぶりに実家の両親の顔を見に故郷へもどる人、親しい友人と出かける人、家族と団らんする人など、様々だと思います。正月休み、ゴールデンウィーク、お盆休みと、だいたいの人は長期休暇をとることができる時期が決まっています。

 最前線で困難な仕事に立ち向かっている人や体に負担がかかる仕事に従事している人は、うまく休養をとることが、大切な資質の一つになります。

 「あんなにハードに働いているのに、大丈夫ですか」「たくさん仕事を抱えて、いつ寝ているんですか」と聞きたくなるほど、仕事や勉強を能率よくできる人がいます。そんな人ほど、うまく休みを活用しているものです。仕事や勉強のときは集中して取り組み、休むときは精神的にも肉体的にもリラックスする。このオンとオフの切りかえが、大切になります。

 そこで、休みの取り方が、重要になってきます。頭の中を空にして何も考えない時間を作ることや、趣味に没頭して仕事のことを考えないようにする方法もあります。スポーツをすることで、精神的にも肉体的にもリフレッシュする、という人もおいででしょう。

疲れていたのは体だけか

 「疲労困憊こんぱいしています」と診察室へ入ってきたSさんは、たしかに疲れた顔をしていました。「年度末で、仕事が忙しく休む暇がありませんでした」と、深くため息をつかれました。高脂血症で昨年から健康管理をさせていただいていましたので、「すると、運動不足もありそうですね」と声をかけたところ、「体がきつくて、運動どころではありませんよ」と返事が返ってきました。

 診察してみると、腹直筋が緊張して、へその近くでドクンドクンと拍動を触れました。このおなかのサインは、精神的な障害を意味します。

 そこで、Sさんに、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)という漢方薬を出しました。この漢方薬は、「夜泣き、かんの虫」に用いるもので、精神的な疲労などにも効果を発揮します。

 2週間後、「体が軽くなり、夜もよく眠れるようになりました」と元気になったSさんがやってきました。Sさんの場合は、肉体的疲労が重なり、それが精神的疲労となり、体の不調となっていたようです。精神的疲労を改善する抑肝散加陳皮半夏が、Sさんの体調を改善してくれました。

肉体と精神のバランス重視

 「肉体だけ疲れている、精神は大丈夫」と思っている人はいませんか。実は、精神と肉体は、切り離して考えることはできないのです。

 マラソンにたとえてみましょう。レース後半、肉体がだんだんと疲れてきます。最初のうちは、精神はしっかりしていますが、まわりに追い越され、勝ち目がないレースになったとき、精神的にあきらめてしまいます。最後には精神的な疲れが出てしまい、がんばりが利かなくなります。

 この肉体と精神の関係を理解することは、生きていくために重要なポイントです。漢方医学では肉体と精神のバランスを重視します。

 「疲れているからニンニク注射をする」だけでは、疲れをとることはできません。精神の安定を図る取り組みが必要になります。

 「精神的ストレスを緩和する薬を飲む」だけでは、解決しません。肉体的な問題を見つけることが大切になります。

 Sさんの場合のように、自分では肉体的な疲労だけと考えていることが多いのですが、実際には、精神的にも疲労がたまっていることがあります。肉体と精神を分けて考えるのではなく、両方のバランスを大切にすることが大切です。

 このゴールデンウィークを精神と肉体の両方の問題点をみつけることに使ってみてはいかがでしょうか。1年をうまく乗りきるために、休みをうまく活用して、精神と肉体の手入れをしてみることも大切だと考えます。