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コラム

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筋肉の動きを意識しよう

現在は、「体育の日」というと、10月の第2月曜日になっています。しかし、わたしが小学生の頃は、10月10日でした。毎年、体育の日は天気が良いので、かならず運動会が開催されました。徒競走や綱引きなど、楽しい思い出がいっぱいです。

 スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋――みなさんは、秋になって取り組んでいることがありますか。お金をかけずに、健康な毎日を過ごすために、まず、体を動かすことからはじめてみてはいかがでしょうか。

 今回は、スポーツではなく、運動でもなく、体を動かすことに注目したいと思います。気構えてスポーツをしようとすると、なかなか長続きしません。運動をしようと着替えてはみたものの、どういう運動をしたら良いか、わからないことがあります。

 しかし、スポーツや運動でなくても、体を動かすことは、毎日の生活で必ず行っていることです。これまで意識しないで動かしていた体を、意識して動かしてみてはいかがでしょうか。

 朝、目が覚めたとき、まばたきをします。これも体を動かすことのひとつです。体のどこか一部の筋肉を動かすこと、を意味します。

 コップを持ち上げるとき、ゆっくりと一本一本の指の動きを確かめながら、行ってください。昔痛めた中指を動かすときに違和感があったり、自分の腕の重さに驚いたり、と意外な発見があるかもしれません。

 首や肩を動かしてみましょう。頭を支えている首の筋肉は、たくさんあります。首の前側には胸鎖乳突筋、前頚筋ぜんけいきんなど、首の後ろには僧帽筋、板状筋など、多くの筋肉が働いています。

 そして、寝ている時も、座っている時も、歩いている時も、同じように、筋肉を意識してみましょう。

 こうした確認をしながら体を動かすことで、自分の体の状態を簡単に知ることが出来るようになります。いつもと違う違和感や痛みを感じたときは、医療機関を受診することをお勧めします。

 50年前の10月10日に、東京オリンピックの開会式が行われました。そして、2020年、再び、東京でオリンピックが開催される予定です。それまで、元気で健康に生活するために、体を大切に手当てしていく必要があります。自分の健康を自分自身でチェックするために、体を動かしてみてはいかがでしょうか。

スギ花粉症に期待の新治療法

 

スギ花粉症に期待の新治療法

毎年、春になるとスギ花粉で、つらい毎日を過ごしている方に朗報です。スギ花粉によるアレルギーの新しい治療薬が発売されます。今回の治療薬は、減感作療法(アレルゲン免疫療法)に使う薬です。これまで、花粉症の治療は、アレルギー反応を抑える副腎皮質ホルモン、ヒスタミンによる症状を抑える抗ヒスタミン薬など、対症療法が中心でした。

 花粉症と減感作療法について、簡単に説明させていただきます。体がスギの花粉を取り込むと、拒否反応を起こします。拒否反応は、鼻水、鼻づまり、眼のかゆみなどの症状として現れます。これが花粉症です。減感作療法は、原因となるスギの花粉をほんのわずかずつ、体に入れるようにして、拒否反応を起こさないようにしていく治療法です。

 これまでの減感作療法は、スギ花粉を希釈した液を皮下注射する方法しかありませんでした。しかし、今回、新しい治療薬は、注射の痛みがなく、ただ毎日、舌のうらへスプレーするだけの簡単な治療法です。

 この新しい治療法は、医療者にとっても患者さんにとっても、いろいろと守らなければならない規則があります。医師がこの薬を処方するためには、指定された学会の講習会を受講する必要があります。そして、受講した医師には、インターネットで学習する権利が与えられます。医師は、自分のパスワードを使って、インターネットでの学習を行い、試験に合格して、初めて処方が許可される仕組みになっています。

 患者さんは、医師、薬剤師、看護師に十分な説明を受けてから始める必要があります。治療は2年間、毎日コツコツと続ける必要があります。また、最初の1年間は、2週間ごとに医療機関を受診する必要があります。定期的な診察によって、新しい治療薬の安全性を確認し、副作用などの調査を行うためです。

 科学の進歩によって、新しい治療法と治療薬が開発され、治癒可能な病気が増える。すばらしい時代になりました。

 しかし、どの時代にも、100%の治療はありません。最新治療だけでは、すべてを治すことは不可能です。減感作療法も、2年間にわたって毎日、治療を続けても、10~20%の方は、治療効果がない場合があります。減感作療法だけで、花粉症が完全に退治できるわけではありません。やはり、毎日の生活に注意し、健康への地道な努力が求められます。そのためには、自分の生活を今一度、見直してみることも、大切だと思います。自分では気づかない生活の問題点は、医師、薬剤師、看護師へ相談してみるといいでしょう。私たち医療従事者は、みなさんが毎日の生活を元気に安心して過ごすために手に手を取って前へ進んでいければと、日々、願っています。

感染症対策の基本は「手洗いとうがい」

人の歴史は、感染症との戦いです。「疫病えきびょう」は、いつの時代にも、人の生活を脅かしてきました。

 今、世界では、エボラ出血熱の患者が増えています。エボラ出血熱は、有効な治療法がない感染症です。エボラウイルスは、高い死亡率を持つ危険なウイルスのひとつです。どうか、はやく終息してもらいたいものです。

 今年の夏、東京近郊では、デング熱が広がりました。第2次世界大戦中に、戦地から持ち帰られたウイルスによって、1940年代に流行した時期がありました。70年ぶりに流行したデング熱も、有効な治療薬はなく、対症療法になります。

 デング熱の初期症状は、突然の高熱、頭痛、眼の痛み、顔の紅潮、結膜充血です。初期症状に続いて、筋肉痛、関節痛、全身倦怠けんたい感が起こります。症状がでてから3~4日目には、発疹が身体、手足、顔面に広がります。症状は、1週間程度で、回復します。ごくまれに、発熱後に出血傾向などで、致命的な状態になることがありますから、医療機関へ受診することが大切になります。感染を媒介する蚊が活動しなくなる10月中旬まで、注意が必要です。

 そして、これからは、インフルエンザが流行する季節になります。

 10月になると、インフルエンザの予防接種が始まります。みなさんは、毎年、予防接種を受けていますか。予防接種を受けないで死亡した人の約80%は、接種で防ぐことが出来たと言われています。65歳以上の高齢者、65歳未満から60歳で心臓疾患、呼吸器疾患、腎臓疾患を抱えている人は、予防接種を受けることがすすめられています。

 感染症対策の基本は、「手洗いとうがい」です。手洗いもうがいも、こまめに行うことが大切です。外出から帰ってきた時や人と会った時は、かならず手洗いとうがいを行うように、習慣づけるようにしましょう。

 手洗いのポイントは、慌てないことです。よくみかけるのは、指先だけ水にらしたり、洗った後に手を拭かないでまわりを水滴で汚したりする姿です。手を洗うときは、自分では、汚していないと思う部分にも気を配ることが大切です。知らないうちに汚してしまっていることがあります。手についた水滴をパッパッと手を振って乾かそうとする動作は、手についていたバイ菌で水回りを汚してしまいます。これが感染を広げる原因になります。

 うがいについては、ポイントは口の中もゆすぐことです。のどをガラガラとうがいするだけでなく、かならず口の中の汚れも一緒に落とすといいでしょう。

 目に見えない感染症に対抗するには、毎日の「手洗いとうがい」が大切です。家族の誰かが感染すると、家族全員へ広がる危険性があります。感染症の予防は、家族全員で取り組む必要があります。そして、学校、職場など、みなさんの生活の場で、協力し合い、感染症が広がるのを予防していきましょう。

シソは身近な「漢方薬」

シソが、紫色をした小さな花をつけました。秋がやってきました。みなさんの家では、どんな植物を育てていらっしゃいますか。わたしが今年、ベランダ菜園で育てているのは、水戸のハーブ園からいただいた赤シソです。

 シソには、青シソと赤シソがあります。

 青シソは、「大葉おおば」とも呼ばれています。青シソには、殺菌・防腐作用を持つペリルアルデヒドが含まれているため、生ものといっしょに調理されることが多いようです。このため刺し身のつまやお弁当に入れられます。また、青シソは、ニンジンやパセリに比べて、ビタミンA(カロテン)を含む割合が多いのです。脂溶性ビタミンAを効率よく吸収するためには、シソを油で調理するといいでしょう。

 赤シソは、梅干しや紅ショウガの色付けに使われます。赤シソの種は、七味唐辛子などにも使われます。漢方薬の材料としても、赤シソ(紫蘇葉しそよう)が使われています。

 中国の後漢時代、名医・華陀かだがカニの食中毒で死にかけていた若者を「紫」色の草で、「よみがえ」らせたことから、紫蘇しそと呼ばれるようになったといわれています。

風邪予防に香蘇散

 シソを使った漢方薬には、香蘇散こうそさんがあります。香蘇散は、シソ、ショウガ、みかんの皮などで、できています。香蘇散は、風邪薬として使われていますが、胃腸障害、精神的不安などにも使われています。よく風邪薬として使われる葛根湯かっこんとう麻黄湯まおうとうとは、使い方に違いがあります。

 「のどがおかしい」「寒気がする」「体がだるい」など、風邪の初期症状があるとき、わたしは「麻黄まおう」というエフェドリンを含んだ葛根湯や麻黄湯などを処方します。エフェドリンは、交感神経を活性化して免疫力を高めます。しかし、胃腸の状態が悪いときや生まれつき胃腸が弱い人には、薬が強すぎることがあります。薬が強すぎるとかえって体調が悪くなり、場合によっては動悸どうきやめまい、吐き気などがでてしまいます。

 香蘇散は、胃腸薬としても使われる薬です。胃腸の弱い方が風邪にかかったときに使います。また、寒い時期に体調を崩しやすい方は、風邪の季節になったら予防的に服用を始めます。そうすることで、風邪予防になります。

機能性胃腸症に半夏厚朴湯

 半夏厚朴湯はんげこうぼくとうにもシソが使われています。半夏厚朴湯は、シソ、ショウガ、半夏、厚朴などで、できています。のどのつかえ、せき、吐き気といったのどから胸、みぞおちにかけての症状に使われる半夏厚朴湯は、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、消化器内科で扱う病気(咽頭炎、気管支炎、逆流性食道炎、慢性胃炎など)に使われています。

 最近では、超音波検査でもCT検査、胃カメラ検査でも異常がなく、機能性胃腸症(FD:Functional Dyspepsia)と診断されている症状に、半夏厚朴湯が使われます。

 機能性胃腸症の治療には、酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬、粘膜保護薬、マイナートランキライザーなどが使われるほか、最近ではヘリコバクター・ピロリ菌の除菌なども行われています。さらに、治療の選択肢に半夏厚朴湯を加えることで、症状に悩んでいる多くの人を救うことが出来ます。

 シソは、身近にある漢方薬の材料です。これからの時期、薬味としてシソを使ったり、ショウガを組み合わせてみたり、料理にうまく活用すると良いと思います。みなさんが、元気で健康に毎日を過ごされますように、心から祈っています。

生姜の効用 からだを温めて風邪予防

今年は、東京都港区の芝大神宮「だらだら祭り」が、9月11日から21日まで開催されます。芝大神宮は、平安時代の寛弘2年(1005年)、一条天皇の御代に創建されたと言われている由緒あるお社です。

芝大神宮の中には「生姜塚」もあります

 この「だらだら祭り」は、別名「生姜しょうが祭り」とも呼ばれています。平安時代に、神社の周辺には生姜畑が多く、生姜を神前に供えたそうです。この生姜をいただくと、風邪にかかりにくくなるという評判から、「生姜祭り」とも呼ばれるようになったのだそうです。

 漢方医学で「風邪薬」として処方される漢方薬には、生姜がよく使われています。代表的なもののひとつが「葛根湯かっこんとう」。落語に「葛根湯医者」という話があります。頭痛にも、腹痛にも、どんな症状にも、すべて葛根湯を処方する医者をおもしろおかしく、枕話にしています。葛根湯は江戸時代、庶民の風邪薬として、とても親しまれていました。

 新生姜は、6月から8月にかけて収穫されます。9月になると、生姜は赤い茎の部分が白くなります。そして、秋から冬にかけて、貯蔵されていた根生姜が、出回ります。生姜は1年を通して、私たちの生活にかかせない食品の一つです。

 海外でも、「ジンジャエール」「ジンジャーティー」など、飲み物として愛されている生姜ですが、どんな効用があるのでしょうか。

ジンゲロールとショウガオール

 生姜の成分は90%以上が水分です。あの香りと辛みは、ほんのわずか含まれている成分の働きです。この香りと辛みの成分が、風邪に効果を発揮します。その成分とはジンゲロールとショウガオールです。

 ジンゲロールとショウガオールを活用した料理で、風邪を予防する方法があります。例えば、生の生姜をそのまますりおろして、生姜汁を料理の香り付け、味付けに使いましょう。さっぱりとした生姜の辛みが食欲をそそります。生の生姜にはジンゲロールが豊富に含まれています。ジンゲロールの効果で、からだを温め、風邪予防になります。

 ちなみに、生の生姜は殺菌作用もあります。お刺し身やお寿司すしのツマに生姜を添えると効果的です。

 スライスした生姜を使って、温かい飲み物を作りましょう。生姜は、加熱するとジンゲロールがショウガオールに変わります。ジンゲロールよりもショウガオールのほうが、身体を温める作用が強いのです。このためショウガオールは、からだの芯から温めてくれます。また、肉料理に生姜を使うと、生姜に含まれる消化酵素が肉を軟らかくしてくれます。

 これからの季節、風邪対策が必要になってきます。生姜をうまく活用して、元気で健康な毎日をお過ごしください。

 そして、だらだら祭りにお越しの際は、ぜひ、日本社会薬学会市民講座「薬のホント!食のホント!」 にも、お寄りくださいね。私が生姜の効用についても解説する予定です。生姜とゆかりのある芝大神宮のそばで生姜の話ができるのも、ありがたいです。市民講座は13日(土)午後2時から、慶応大学薬学部芝共立キャンパス(東京都港区)で。参加無料。当日参加も受け付けています。詳しくはこちらをご覧ください。お待ちしております。

唐辛子で代謝を活発に

韓国に行ってきました!

 先日、わたしは、はじめて韓国へ行ってきました。韓国と日本の医学交流のために、大韓韓醫學會(大韓韓医学会)で講演するためです。「西洋医学と東洋医学の調和」と題して、お話しさせていただきました。

 それぞれの国の医療には、特色があります。例えば、韓国では伝統医学である韓医学は、西洋医学とは別の専門大学で学ばないといけません。病院も別で、西洋医学を受けている患者さんが、韓医学の治療を受けたいときは、あらためて韓医学の病院を受診する必要があります。日本では、西洋医学も日本の伝統医学である漢方医学も、一人の医師の診察で受けることが出来ます。

 医療の教育もシステムも違う国同士が、協力し合い、これからの医療を発展させていくために開かれた学会でした。

ソウルで食べた料理は…

 学会の合間、同行した日本東洋医学会の皆さんと一緒に、ソウル市内を観光させていただきました。旧市街地にある京東市場(キョンドンシジャン)には、薬草を扱う問屋が並び、街中にその臭いが漂っていました。日本と違い、生活の中に薬草を使った体調管理法が深く根付いていることをうかがわせる場所でした。

 もちろん、韓国料理もいただきました。はじめての韓国旅行でしたので、どんなに辛い食事になるのか、ドキドキしていました。大韓韓医学会の皆さんとの晩さん会ではいただいた伝統料理は、カボチャの甘いスープや酸っぱい水キムチなど、辛い味付けのものは、ほとんどありませんでした。

 数々の品の中で、ひとつだけ、辛い味付けの料理がありました。このとき、目の前にいらっしゃった学会会長夫人が、「この料理、辛いわね」と顔をしかめたものですから、びっくりです。わたしの先入観で、「韓国の人は、辛いものに慣れている」と思い込んでいたことが間違っている、と痛感した瞬間でした。

 「韓国料理は、辛い」のではなくて、日本では「辛い味付けの韓国料理が多い」ということだったのですね。

唐辛子の効用と注意点

 辛い味付けのもとは、唐辛子です。

 唐辛子の効能は、カプサイシンによる代謝亢進こうしん作用です。体の代謝を活発にしますので、熱を発生して、汗をたくさん出します。このため、エネルギーをたくさん燃やすことが出来ますので、ダイエット効果があると、一時、注目されましたね。また、寒い時期には、唐辛子で味付けをした料理を食べると体が温まると言われています。

 しかし、食べ過ぎるとカプサイシンの作用で、腸が刺激され、腹痛になったり、下痢をしたりしますので、注意が必要です。

 わたしは、今回の旅行で唐辛子が入った料理も食べてみました。すると、胃のあたりが温かくなり、頭のてっぺんから湯気が出るように汗がふきだしていました。さらに、おなかがゴロゴロと動き、何度もトイレへ行くことになりました。どうも、わたしには、その料理の唐辛子は強すぎたようでした。人によっては、少量の唐辛子でもお腹を壊してしまう人がいます。唐辛子の食べ過ぎにはくれぐれも注意してください。

別々に発展した韓医学と漢方医学

 それぞれの国で、医療は特徴のある医学へ何年もかけて発展してきました。それは、伝統料理や伝統文化と同じように、国民性や土地柄が大きく影響しています。韓医学と漢方医学は、同じ薬草を使った医学ですが、診断方法も、治療方法も大きく異なり、それぞれにすばらしい医学として、現在に至っています。

 わたしたちが、積極的に行う必要があるのは、海外の文化に学び、自分たちの生活にかすことです。医学も同じです。隣国である韓医学に学び、漢方医学を大きく発展させることが大切だと、強く感じた韓国旅行でした。

眠れない理由に合わせて対策を

 今年の夏、暑くて睡眠不足になった方、いらっしゃいますか。涼しくなっても、なかなか睡眠の状態が安定しない、途中で目が覚めてしまう、ということがあります。あなたは、眠れない夜をどう過ごしていらっしゃいますか。

 年を取ると、睡眠が浅くなり、睡眠時間も短くなった、とお嘆きの方が多いと思います。睡眠導入剤などを処方していただいている場合もあります。わたしのクリニックへも、「眠れない」ことを悩まれて、受診される方がいらっしゃいます。

 しかし、眠れない理由は、様々なようです。例えば、「心配事があり、眠れない」「脚が冷えて、トイレが近いために眠れない」「寝つくのが遅く、夜中になってしまう」というものです。

 いろいろな理由がありますから、すべて、同じ睡眠導入剤で治療するのは、間違っているように感じますね。みなさんは、どうお考えになるでしょう。わたしは、ひとりひとりに合わせた治療法があると、考えています。

 試験前や重要な会議の前、なかなか寝つけないのは、「心配事があり、眠れない」と同じような原因と考えます。頭を休めることができず、睡眠がうまくとれないためです。頭を休める方法を考える必要があります。例えば、試験勉強や会議の準備は、ある程度で区切りをつけてもらい、決められた時間に睡眠をとってもらうようにします。

 心配事がある時は、解決策がなかなか見つからず、出口の見えないトンネルのような状態です。「睡眠をとることが、ひとつの薬になる」ことを理解してもらいます。

 脚が冷えて眠れない、トイレが近くて眠れない場合、睡眠導入剤以外にも、いろいろな薬が処方されている場合があります。脚が冷える場合は、ビタミンEや血流改善剤などが処方されます。

 あるいは、薬に頼らないで、寝る前に足浴をすると良いと思います。昔、病院で勤務をしていたとき、眠れない患者さんの両足を、お湯でゆっくりと温めている光景を目にしました。トイレが近いときも、同じ方法で、改善することができます。

 寝るのが、午前2時や3時だという人がいらっしゃいます。中には、朝方、床について起きるのはお昼近くだ、という人もいらっしゃいます。これは、眠れないのではなく、睡眠時間がずれてしまっています。いくら睡眠導入剤で治療しても、改善することはありません。

 この場合は、睡眠日記をつけてもらいます。何時に寝て、何時に起きているか、自分自身でも自覚していただくために、しっかりと記録をつけてもらいます。そうすることで、睡眠時間は6~8時間としっかりとれているが、睡眠の時間帯がずれていることがわかります。

 睡眠不足は、昼間、身体がだるくなったり、眠気が襲ったりします。しっかりとした睡眠は、健康のために必要です。睡眠をうまく調節して、元気で、健康な毎日をお過ごしくださいね。

夏風邪 のどとお腹で違う対処法

 夏の甲子園も、いよいよ佳境です。今年は、どこが優勝するのでしょう。学生たちの夏休みも、残すところあとわずかですね。真っ黒に日焼けした子供たちも、そろそろ、夏休みの宿題のでき具合が、気になるころです。皆さんの夏は、いかがですか。

 まだまだ暑い日が続く中、わたしのクリニックには、「夏風邪」の患者さんが増えています。「夏風邪」には、「のどの風邪」と「おなかの風邪」があります。

のどの風邪対策

 のどの風邪の原因は、冷房や扇風機です。クーラーの利いた部屋で寝てしまった、扇風機に当たりすぎた、など暑さをしのぐために使っている冷房や扇風機で、体調を崩してしまったケースが多いようです。

 冬の風邪は、高熱と咽頭痛で始まり、関節痛や全身倦怠けんたい感へと症状が進んでいきます。これに比べ、のどの風邪は最初、軽いだるさや微熱で始まり、のどの痛みやせきが長引いて、なかなか治らないと、のどの症状を訴えて受診されます。声がかれてしまうため、電話で会話が難しい、咳のし過ぎで胸が痛む、体力を消耗し、疲れきってしまった、という方もおいでです。

 こんな症状の場合、西洋医学では、総合感冒薬と咳止めをお出しするところです。漢方医学では、咳を軽くすることも大切ですが、体力を回復させることも必要と考えます。「竹じょ温胆湯(ちくじょうんたんとう)」を処方します。

お腹の風邪対策

 お腹の風邪の原因は、冷たいものを食べたり、からだを冷やしたりしたことです。冷房の利いた部屋に入るとお腹が痛くなる、かき氷を食べると下痢をする、などの症状でお見えになります。消化不良が続くために、徐々に体力が低下してしまい、体全体がだるく、仕事を休んでしまう方もいらっしゃいます。

 こんな症状の場合、西洋医学では、下痢止めと整腸剤をお出しするところですが、漢方医学では、胃腸の状態を整えることも必要と考え、「啓脾湯(けいひとう)」を処方します。

 夏もあと僅かです。夏の体調管理、どうか怠りなくお過ごしください。

自然の力を活用しよう

 高校球児の夏がやってきました。台風の影響で、今年は、夏の甲子園の開会式が、2日も延期になる異例の全国高校野球大会となりました。ひとつの白球を真剣に追う彼らの姿は、多くの感動を与えてくれます。みなさんにとっての夏は、いかがでしょうか。学生にとっては、楽しい夏休み、営業担当のサラリーマンにとっては、クールビズでも暑い夏だと思います。

薬草で五感を確かめる

 わたしは、先日、休みを利用して薬学部の学生と一緒に水戸市にあるハーブ園を訪れました。このハーブ園では、漢方薬の材料に使う薬草がたくさん育てられているからです。学生たちは、漢方薬の薬理作用や効果などを理解する場合、教科書や参考資料といった机の上で学ぶことが多いのです。しかし、この実習に参加した学生たちは、自分たちで、薬草を摘み、エキスを搾り出し、ジュースにして味わうことで、薬草についての理解を自分の五感を使って確かめていきます。実際に、自分たちの目で見て、手で触れ、香りを嗅ぎ、舌で味わうことで、ひとつひとつの薬草をより深く理解したことでしょう。

ペパーミントの冷湿布は、どうして冷たく感じるの?

 ハーブ園では、2種類のペパーミントが育てられていました。このハーブ園の園長先生お手製の赤じそジュースにも、このペパーミントが使われていました。その香りは、いつもわたしが口にしているペパーミントの何倍も強く、味も濃いものでした。同行した薬学部の先生と、「ペパーミントを入れたお湯は、温かいけれど、飲んだ後に口の中へ爽快感が広がり、ひんやりと感じるのは、どうしてだろう」と、ペパーミントの効用が、話題になりました。この香りのもとであるペパーミントの成分は、打撲や筋肉痛に使う冷湿布に使われています。

 冷湿布は、冷蔵庫で冷やさなくても、ペパーミントに含まれる成分の作用で、口の中の粘膜や皮膚に直接作用して「冷たく」感じます。実際には、常温のままの冷湿布でも、身体は冷たく感じるのですから、ペパーミントの作用は、熱をとり、患部を冷やす効果があります。自然の力を治療にうまく利用しているわけです。

自然の力を活用して、元気で健康な生活を

 ペパーミントをはじめ、ハーブ園にあった多くの植物は、漢方薬の材料に使われています。知識と経験で、自然から人の健康を守る漢方薬が作られています。科学の進歩で開発された新薬が果たす役割と、自然によって育まれた漢方薬の役割は、おのずと違っていると思います。

 日本で行われている医療の利点の一つに、一人の医師が、新薬と漢方薬を一緒に使う点があげられます。海外では、西洋医学と漢方医学のような伝統医学は、医師免許が異なり、新薬は西洋医学の免許を持った医師、伝統薬は伝統医学の免許を持った医師が、それぞれ別々に処方します。日本だけが、同時に両方の医学の治療を同じ医師から受けることが出来ます。

 科学の力でうまく治療ができないところを自然の力を活用し、漢方医学で補っていく日本の医療は、みなさんの元気で健康な生活を支えていきます。

薬のホント!食のホント!

 ところで、みなさんも、この自然の力を一度、実際に体験してみませんか。9月14、15日に「日本社会薬学会33年会」が、東京都港区にある慶応義塾大学薬学部芝共立キャンパスで開催されます。
http://shayaku.umin.jp/33nenkai/index.html

 また、前日の13日の土曜日の午後、市民講座では、「薬のホント!食のホント!」をテーマに、薬膳クッキーやハーブティーを実際に味わっていただく予定です。どうやって自然の力を生活に取り入れていけばいいか、具体的にお話しさせていただく予定です。ぜひ、ご参加くださいね。

 その後、ハーブ園の園長先生から、宅配便でペパーミントの苗が送られてきました。わたしも、東京でペパーミントを育てはじめます。園長先生にいただいた植物たちが、東京の地で無事に育ってくれるように、心から願っています。園長先生、ハーブ園の関係者の皆さん、本当にありがとうございました。

喉頭がんと食道がん つらい治療を乗り切るために

 ハンフリー・ボガートさん、井上靖さん、淡路恵子さんなど、食道がんで亡くなった有名人は少なくありません。最近では、桑田佳祐さんのように、治療によって元気に活躍している有名人もいらっしゃいます。林家木久扇さんは喉頭がんの治療に取り組んでいます。

 前回に続き、喉頭がんと食道がんの治療について取り上げます。今回は、どうやって漢方医学を生かしていくのか、お話しさせていただきます。

副作用、合併症を減らす

 がんの3大治療法といわれている外科治療、薬物治療、放射線治療には、副作用、合併症という負担もあります。しかし、この副作用や合併症を少しでも減らして、治療を受ける人が苦しまないように手当てをすることが、わたしは大切だと考えています。

 現在は、3大治療法という攻めの治療に対して、守りの治療として緩和ケアが行われています。

 緩和ケアというと、体や精神的な苦痛を取り除くこと、と思っている方もいらっしゃるでしょう。たしかに、ペインコントロールやメンタルケアは、緩和ケアの重要なポイントです。しかし、ペインコントロールとメンタルケアだけが、緩和ケアではありません。たとえば、食欲の低下や便通障害(下痢と便秘)など、日常生活での様々な問題をケアすることが、緩和ケアには含まれます。

 そして、緩和ケアといっしょにおすすめするのが、漢方治療です。

きめ細かい対応可能

 日本の伝統医学である漢方治療は、日本人に合った守りの治療として、がん治療に活用されています。

 夏にがん治療を受ける人には、夏ばての漢方治療を行い、冬にがん治療を受ける人には、漢方医学による風邪対策を行います。負担がかかるがん治療をうまく乗り切るために、きめの細かい対応を漢方医学で行うことが出来ます。

 外科治療を受ける患者さんには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)といった参耆剤(じんぎざい)を中心に治療を行います。体力を整え、胃腸を丈夫にする参耆剤は、栄養状態を良い状態に保ち、体力の回復を早めてくれます。

 薬物治療の場合は、抗がん剤に合わせた漢方薬の選択が必要になります。シスプラチンによる食欲低下には六君子湯(りっくんしとう)、タキサン系薬剤による末梢まっしょう神経障害には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、CPT-11(イリノテカン)の下痢には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)といった組み合わせが良いと思います。

 放射線治療の場合は、照射する場所によって漢方薬を使い分けます。喉頭がんやけい部食道がんでは、半夏瀉心湯が有効です。放射線による粘膜障害を軽くしてくれます。口内炎なども、非常によく治してくれます。胸部食道がんの場合も、半夏瀉心湯が有効です。とろみをつけた水に半夏瀉心湯を溶かして内服することで、放射線性食道炎を治療することが出来ます。

3つのメリット

 副作用を軽減することで、いろいろな良い点があります。1番目は、治療を楽に受けられるようになることです。2番目は、予定している治療スケジュールを最後まで行うことが出来るようになること。そして、3番目は、治療がスムーズに進むため、治療効果が十分に発揮されることです。

 がん治療を受けている人の中には、わらにもすがる思いで高価なサプリメントに手を出したり、大量に健康食品を購入したりしてしまう人もいます。どうか、その前に、漢方医に相談してください。医学的にエビデンスのある科学的な漢方治療が、きっと期待に応えてくれるでしょう。西洋医学と漢方医学の融合によって、すべての人が、喉頭がんや食道がんに負けない治療を受けていただけることを心から願っています。